井崎脩五郎のおもしろ競馬学

「すうわり」と「むっちり」

駅裏に小料理屋ができて、店名が平仮名で「すうわり」。

薄紫の暖簾(のれん)に、白く「すうわり」と染め抜かれている。

すうわり?

日本語なのだろうか。

外からは品書きも値段もまったく分からず、ひとりで入る勇気はまるでないので、長老記者を誘った。

すると、その長老記者が店名を見るなり、「昔、アラブの競走馬で、スウワリという名前の馬がいたなあ」という。

「何語なんですか?」

「日本語だよ。その馬が走っていた頃、調べたことがあるんだ。たしか、華奢(きゃしゃ)とかそういう意味だったと思う」

では、いざと、引き戸をあけて店に入ってみると、若夫婦ふたりでやっている店だった。

やがて店名の話になり、「昔、祖父が持っていた馬の名前なんです」「ああ、やっぱり」「ご存じなんですか」「ええ、知ってます、たしか園田競馬で」「そうです、そうです」

ああ、長老を誘ってよかった。

聞けば、店主は、幼いときからそのおじいちゃんにかわいがられて育ち、生前、「これをいつか役に立てろ」と骨董(こっとう)を渡されて、ありがたく開店資金にかえたのだという。「お礼の意味を込めて、すうわりという店名にしました」

広辞苑をひいたら、「すうわり」はちゃんと載っていた。

すうわり=しとやかなさま。しなやかなさま。また、すらりとしたさま。

そして例文として、こういうのが添えられていた。「ほつそりすうわり柳腰とさへいふじやあねえか」(浮世風呂)

店主がいうには、おじいちゃんはよく江戸の滑稽本を読んでいたそうだ。すうわりは、そういう本に出てくる、いわゆる江戸語。

「祖父によると、饅頭(まんじゅう)のように肉づきのよいことを、江戸では、むっちりまんじゅうといったそうです。どなたか、大柄な馬にムッチリマンジュウと命名してくれませんかね」

実現して、新聞の見出しに「マンジュウ怖い!」と出たら最高だね。(競馬コラムニスト)

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