2月1日、プロ野球の春季キャンプが始まった。今年は昨秋のドラフト会議で指名された1人の選手に注目したい。日本ハム3位指名の加藤豪将選手。米国で10年間プレーし、昨季にメジャーデビュー、初安打も記録した。それから、日本のプロ野球へ。転身には、相当な覚悟と勇気が必要だったはずである。
入団会見での文章が、目を奪った。「The man who loves walking will walk further than the man who loves the destination (歩くことが好きな人は、ゴールを目指している人よりも遠くまで歩ける)」「メジャーリーガーになることに喜びはなく、そのために毎日毎日、自分を高めるために夢中になるプロセスに喜びを感じていたのだ。自分が野球をやる意味はそこにあった」である。なんと素晴らしい選手だろう。ファンになった。選手としてだけではなく、1人の人間としての今後にも声援を送りたい。
われわれは何かを成し遂げたと思うと、次の一歩を踏み出しにくくなる。「バーンアウト」や「燃え尽き症候群」と言われる症状である。しかし、加藤選手のように「もっと先へ」と進む行為自体が好きな人は、そのプロセスからさまざまなことを学んでいる。「まだ先がある」と考えるから、バーンアウトとは無縁の選手生活を送るだろう。
以前、スピードスケート平昌五輪金メダリストの小平奈緒さんに「バーンアウトしたことはありますか?」と質問した。小平さんは「ないですね」と即答。理由を尋ねると、「学び続けること自体が楽しいので、バーンアウトしている暇がない」とのことだった。加藤選手のメンタリティーは、小平さんと同じだなあと思い出した。
「自分を高めることに興味がある人」は、その方法と情熱をスポーツから学ぶ。すると、スポーツを終えてからも、その方法と情熱を別の方向に向けるだけで、次の人生が開けていく。しかし、ゴールにたどりつくことだけに執着していると、結果だけを気にするようになり、プロセスが置き去りになる。そして、スポーツを終えてみると、何も残っていない人生が待ち構えていることに気づく。自身の活動を振り返れば、たくさんのことを学べているのに気づけるはずだが、ゴールに執着する人はえてして振り返る行為が苦手な人が多い。
「スポーツが人間性を高める」とはよく言うが、スポーツをしていれば自動的に人間性が高まるのではない。「今、自分がしているスポーツは、人生(未来)につながっているか?」が、スポーツを終えるときに問われることを、念頭に置いているかが、すごく重要である。スポーツが未来を変える。そうかもしれない。しかし「変わるかどうかは自分次第」。「未来が変わるスポーツができているか」を考えてみると、スポーツの味わいが変わってくるのではないだろうか。
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高橋佳三(たかはし・けいぞう)福井県出身。筑波大学博士課程人間総合科学研究科修了、博士(体育科学)。スポーツバイオメカニクスと武術などを通して、「人間として最大のパフォーマンスを発揮するための動きや感覚」を研究。びわこ成蹊スポーツ大学教授。
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スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。