主張

「飲む中絶薬」 女性の身体を守る契機に

「飲む中絶薬」といわれる英国企業の薬剤について、厚生労働省の専門部会が承認を可とする判断を示した。厚労省は一般の意見を募った上で、3月にも承認について最終的な結論を出す。

日本では従来、妊娠初期に中絶するには外科的手段しかなかった。飲み薬が認められれば女性の身体的負担が軽減される。効果的に使うことが重要である。

ただし、飲み薬が登場するからといって中絶が手軽になると捉えるのは間違いである。どんな手段であっても中絶が重い判断であることに変わりはない。決して忘れてはならないことである。

その上で薬剤が正しく理解されて適切に使用されるよう、政府は環境を整えなくてはならない。

この薬は英製薬会社、ラインファーマが令和3年に承認申請した「メフィーゴパック」で、妊娠9週までの妊婦が対象だ。異なる2剤を日にちを置いて使う。使用するには医師の処方が必要で、医療機関での投与が前提だ。安易に使える薬ではない。

日本国内での治験によると、2剤目を投与した後、24時間が経過するまでに93・3%が中絶に至った。30%で下腹部痛が、20・8%で嘔吐(おうと)の副作用があった。

厚労省は日本産婦人科医会と協議し、妊婦の容体急変などに適切に対応できるよう、入院可能な医療機関でのみ使用できるようにする方針だ。緊急時に対応できる態勢を取るのは当然である。

日本では年間約14万件の妊娠中絶が行われている。「搔爬(そうは)」と呼ばれる中絶手術が行われるのが一般的だが、これは子宮の損傷や合併症のリスクが高い手法だ。世界保健機関(WHO)は「女性にとって苦痛をもたらす」として搔爬を推奨していない。

守るべきは女性の心身の健康と安全である。中絶せざるを得ない妊婦にとって、飲み薬は身体を守る重要な手段となり得よう。

新たな薬剤の登場で懸念されるのは、闇ルートで取引され、不正に使用されることである。それによって妊婦を危険にさらすことは許されない。

薬剤の流通管理を厳格にすべきはもちろんだ。厚労省は医療機関に対し、納入される薬剤数やロット番号を記録し、誰に投与したかを明確にするようカルテなどを管理することを求める。その徹底に万全を尽くしてもらいたい。

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