ロンドンの甃

幸せでなかった時間

英メディアが1月下旬、ロンドン南西部に住む27歳の香港人女性が昨年11月に自殺したと報じた。数カ月前に香港から単身で渡英したばかりだった。

女性はインフレの影響で高騰する物価や家賃に悩んでいたという。収入に不安があり、節約のため毎日の食事を制限していた。不眠症にも苦しんだそうだ。

英国に移住した香港人の自殺は初めてではない。過去には渡英した民主活動家の女性が自ら命を絶った。香港での中国共産党の統制強化に絶望した経験から心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しむ移住者は少なくない。ただ、報道をみる限り、今回の自殺の要因は香港問題ではなく、英国での困窮した生活だ。

女性を担当した検視官はメディアなどに「英国で過ごした時間は明らかに彼女にとり幸せなものではなかった。残念だ」と語った。

物価高に苦しむのは英国人も同じだ。だが、英国での就労経験がないため採用を断られることもある香港人ら移民はより困難な状況にある。ある香港人の知り合いは仕事が全く見つからず「死んでしまいたくなる瞬間があった」と明かす。

英国が、香港人の英国永住権取得に道を開く特別査証(ビザ)の申請受け付けを開始してから1月31日で2年が経過した。15万人以上がビザを申請したが、生活の支援など課題は多い。(板東和正)

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