全国で相次ぐ強盗事件は同一グループによる犯行が指摘され、フィリピンの入管施設に収容されている渡辺優樹容疑者(38)らが「ルフィ」などと名乗り通信アプリを通じ、実行犯に具体的指示を出していたとみられている。実行犯は交流サイト(SNS)で集められているが、背景には「闇バイト」の存在も指摘される。「月に100万円稼げる」「1日最低5万」。甘い文句を並べ、巧妙に「犯罪」に誘う実態が浮かぶ。
実行役を「監視」
「自宅も家族も知られてしまい、家族に被害が及ぶのか心配だったので指示に従っていた」。昨年10月の東京都稲城市での強盗傷害事件で逮捕された男の一人は警視庁の調べにそう供述しているという。
捜査関係者によると、男は借金返済やギャンブル代欲しさにSNSでの高額バイトに釣られ、ルフィとやりとり。免許証や住所が分かる写真を求められ、家族構成や勤務先も教えた。実際にグループの者が、自宅を訪問してきたといい、男は犯行グループによる「監視」と捉えたとする。
警視庁は、犯行グループによる個人情報の把握は実行役が犯罪で得た金品を持ち逃げしたり、警察に駆け込まれたりするのを防ぐ目的もあるとみている。
「犯罪」隠し募集
闇バイトの募集はSNS上で散見される。
警視庁犯罪抑止対策本部によると、令和4年にSNSを通じて闇バイト募集をしているとみられる投稿に対し、警告したのは3480件。3年は2246件で1・5倍超に増えている。
SNS上では、具体的な犯罪行為は明示せず「楽に稼げる」「高収入」などと甘い言葉を並べるほか、特殊詐欺の受け子と出し子を指す「UD」とする隠語を使うケースも確認。そして接触してきた者に対し、稲城事件で逮捕された男のように個人情報を送らせ〝弱み〟を握った上で、犯罪に加担せざるを得ない状況を作っているとされる。
警視庁幹部は「犯罪グループにとって捕まりやすい末端は捨て駒で何人いてもよく、ストックしておいて逮捕されれば次の人を使うだけだ」とする。
指示役ら「独り勝ち」
摘発逃れも浮かぶ。犯行現場に姿を現す実行役は逮捕のリスクが高いがグループは役割に応じ細分化。一定期間が過ぎると、やりとりの履歴が消える秘匿性の高い「テレグラム」を使うなどして指示役ら上位者に捜査の手が及ばないようにしている。一連の強盗事件でも、テレグラムの使用が確認されている。
実行犯が得られる報酬はごく一部で、上位者の「独り勝ち」になっているのも実情だという。警視庁幹部は「安易に応募するのは危険。自分の将来のことを考え、絶対に接触しないでほしい」と話している。
警察庁の露木康浩長官も2日の定例記者会見で、「闇バイトを募集して強盗に加担させる新たな手口もあり、拡大しないよう警戒していく」と強調した。(宮野佳幸、王美慧)