ソニーグループが2日、十時裕樹副社長の社長昇格を発表した。同社は吉田憲一郎会長兼社長らの尽力でリーマン・ショック後の経営悪化から脱出することに成功し、足元の業績は好調を維持している。同日には令和5年3月期の連結最終利益予想を従来の8400億円から8700億円に上方修正した。新社長の十時氏には、強まる世界経済の後退懸念に向き合いながら、成長路線を継承することが求められている。
「私自身は成長にこだわっている。事業や会社は成長が停滞してしまうといろんな意味で負の循環に陥ってしまう」
同社が2日に東京都内で開いた社長交代会見。十時氏は、経営者として重視している点を問われてそう答えた。同席した吉田氏も、そのこだわりを「経営者として重要な資質」と高く評価した。
同社は吉田氏が家電中心の事業構造を変え、ゲームや音楽、半導体などの6事業がバランスよく稼ぐ体制を築いたことで再成長に成功。5年3月期の連結売上高は過去最高の前期比15・9%増の11兆5千億円、営業利益も1兆1800億円と、1兆2023億円だった前期に続いて1兆円超えとなる見通しだ。吉田氏が会長と社長を兼ねる現体制から、十時氏との二頭体制へ移行するには絶好機といえる。
吉田氏は、今回の人事が「グループ経営体制の強化を目的としたもの」だと説明する。同社は3年4月にソニーから社名変更し、グループ本社機能に特化した会社となった。十時氏は短期的な業績だけでなく、長期的視点に立った事業の入れ替えや事業同士のシナジー追求にも奔走することになる。
一方、業績好調とはいえ個別事業の課題は少なくない。業績予想の修正に併せ、2年11月発売のゲーム機「プレイステーション5(PS5)」は、半導体の調達難が解消に向かう中で5年3月期の販売計画を1900万台と100万台引き上げたが、累計販売台数は依然としてPS4を下回っている。ホンダとの折半出資会社が7年から受注に乗り出す電気自動車(EV)事業の育成も課題となる中、こうした事業に目配りし、成長を促すのも十時氏の役目だ。
同社は経営を立て直す過程で、アクティビスト(モノ言う株主)として知られる大株主の米投資ファンドから娯楽事業などを切り離すよう執拗(しつよう)に迫られた。業績が回復した今はなりを潜めているが、経営のかじ取りに失敗すれば再び解体圧力が強まる恐れもある。(井田通人)