朝晴れエッセー

心に残る一言・2月1日

昨年末に引っ越しを終え、やっと少し落ち着いた感じだ。何しろ40年、住み着いた場所からの転居である。ここが出生地とはいえ、過ぎしブランクは途方もなく長い。家財などの整理が一段落したとき、一本の電話が鳴った。20年ぶりの友人からだった。最寄りの喫茶店で待ち合わせることになった。

お互い同年代で、私の転勤前までは肝胆相照らす仲であった。果たして友人の顔が識別できるのだろうか一抹の不安はあった。果たせるかなそれは見事に的中した。喫茶店の小さな入り口から小生の席まで迷いなく近づいてきた。私は思わず吉田君?と問いかけてしまった。あまりの変わりようにしばし言葉を失った。

暖かい珈琲を飲みながら話していくうちにその変貌の訳が分かってきた。はやり病の症状にかかり内服薬の副作用に見舞われたのであった。

しかし彼は昔さながらに滔々(とうとう)としゃべり、面影とは裏腹に弁舌爽やかであった。正直ホットした。入院中での苦しみ、孫とのかかわり、今の生活状況、趣味など、話は尽きない。2時間はあっという間にたってしまった。旧交を温める良い時間を共有することができてうれしかった。

後日の会食を約して席を立とうとしたときだった。「よろしければ記念にツーショット写真、お撮りしましょうか」と喫茶店の店主が言ってくれたのだった。商店街の片隅の小さなお店なので話の断片が耳に入っていたのかもしれない。粋な計らいにすがすがしい気持ちになった。スマホの中の一枚の写真が20年の年輪を物語っている。

竹内健一(77) 高松市

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