新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5月8日、季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられるのを機に、学校生活も日常に戻る。「ポストコロナ」ムードにうまく適応できない子供が出てくると懸念している。感染リスクや学校生活での感染対策について、子供自ら考えられるよう、分かりやすい情報提供が求められる。
《国立成育医療研究センターの研究者と医師有志は令和2年4月に「コロナ×こども本部」を立ち上げ、7回にわたり子供の生活と健康に関する実態調査を行った》
当初、政府の感染対策は重症化リスクが高い高齢者の命を守ることに重点が置かれた。社会を感染から守るため、2年春には全国一斉の臨時休校が行われ、子供たちにとって大事な行事が縮小・中止されるなど、学校生活は犠牲にされてきた。
しかし成長期の子供にとって、よく分からない病気への不安と、生活環境が激変したストレスの影響は大きい。調査では、コロナ禍の急性ストレスが解消されないまま長期間続いたことで、子供のメンタルヘルスに問題が起きていることが分かってきた。
《令和3年12月の調査では、小学5、6年生の9~13%、中学生の13~22%に中等度以上の抑鬱(よくうつ)症状がみられた。全国の30医療機関への調査では、摂食障害の一つである「神経性やせ症」の患者が2年度、3年度で増加していた》
人間は急性ストレスがたまっていくと抑鬱状態になりやすい。一定のレベルを超えると、頭痛や腹痛などを訴える心身症や、鬱病、神経性やせ症といった症状として表れる。
子供たちのストレスの大きな要因は人間関係の希薄化だろう。例えば「大人に話しかけづらくなった」という声があった。感染対策として人との接触や対面の会話を控えることが求められ、休み時間に先生に質問したり、友達と雑談したりできなくなったことが背景にある。
またコロナ禍で保護者もメンタルヘルスや経済的な問題を抱えるようになった。親の苦悩を察し、遠慮して自分のことを相談できなくなった子供もいた。
ストレスへの対症療法の一つは、自分の気持ちを言語化して咀嚼(そしゃく)し、理解することだが、コロナ禍では子供が一人で問題を抱え込みやすい状況が生まれていた。注意すべきなのは、子供の問題は家庭内にとどまってしまうことがあることだ。教師や周囲の大人が、つらい思いを抱えている子供を見逃さず、支援につなげなければならない。
そのためには、「困ったことがあれば伝えてね」というように普段から声をかけ、見守る。子供が不安を感じたり、つらいことがあったりしたとき、相談に耳を傾け、手を差し伸べてくれる存在が必要だ。
子供の心の問題は、早めに外部の相談を頼ってほしい。心療内科のほか、スクールカウンセラー、小児科医で心の問題にも対応できる「子どもの心相談医」も身近にいる。
《5類移行後、マスク着用は屋内外を問わず個人の判断に委ねられる見込みに。しかし着脱に迷う保護者や子供もいるだろう》
感染予防効果とデメリットをてんびんにかけ、状況に応じて判断することになる。子供にも判断材料となる情報を分かりやすく説明し、それぞれの考えを尊重すべきだろう。
子供たちは学校で決められた指示に従う生活が3年間続いた。青少年期に自分で考え、判断して行動する経験が不足したことで、将来の社会生活に影響が出てくる恐れもある。(聞き手 石川有紀)
もりさき・なほ 平成19年東京大医学部医学科卒、医師。小児科医として東京都立墨東病院、都立小児総合医療センターで勤務後、国立成育医療研究センター社会医学研究部 ライフコース疫学研究室長を経て現職。小児・周産期の医学と疫学が専門。