【ソウル=時吉達也】韓国人窃盗団が長崎県対馬市の観音寺から韓国に持ち込んだ仏像をめぐり、韓国・大田(テジョン)高裁の1日の判決は韓国側の所有権を否定した。日韓関係の最大の懸案である、いわゆる元徴用工訴訟問題の解決へ両国政府の協議が大詰めを迎える中、関係改善に向けたムードに韓国の司法判断が水を差す事態は回避された形だ。
「10年前に窃盗団に盗まれて不法に韓国に持ち込まれたという事件の本質に立ち返るべきだ」。観音寺の田中節竜住職は昨年6月、控訴審弁論に韓国政府側の補助参加人として出廷し、こう訴えていた。
2017年1月の1審大田地裁判決は、仏像が盗まれ韓国に持ち込まれた経過や、現代法上の所有権の論点を考慮しないまま、倭寇の存在などに言及して韓国・浮石寺(プソクサ)への像の引き渡しを命令した。これには韓国国内でも「韓国人が盗んできたことが明らかな文化財を『韓国のものだ』と主張するのは国益にならない」(朝鮮日報)などと疑問視する声が上がった。
韓国司法でも軌道修正を図る動きがあり、1審が認めた判決確定前の仏像引き渡しについて、地裁の別の裁判官が強制執行を認めないと判断。控訴審では、裁判所が原告側に、仏像を日本に返還して複製品を保管するよう提案したことも報じられた。
韓国の司法判断が日韓関係を悪化させた点で、日本企業に賠償を命じた18年10月の韓国最高裁判決が外交の障害となった徴用工問題に重なる。この問題では、韓国政府による解決案の公表に向け大詰めの交渉が続くが、先月30日のソウルでの局長級協議では詳細の合意に至らなかった。韓国の朴振(パクチン)外相は1日、今月中旬に国際会議があるドイツで林芳正外相との面会実現に期待を示し、「持続的な協議を通じて合理的な解決策を見つけたい」と話した。