日本でテレビ放送が始まってから2月1日で70年を迎える。テレビは技術の進化とともに時代の最前線を映し続け、高度経済成長期にはお茶の間の主役になり、テレビスターが生まれ、流行を作り出した。しかし、インターネットの登場によってその在り方も変革を余儀なくされている。
夜の家族の中心に
昭和28年2月1日、NHKが日本で初めてテレビ放送を開始した。この時の受信契約数は全国で866件に過ぎなかった。35年には、アメリカ、キューバに次いで、世界で3番目にカラー放送がスタート。東京五輪(39年)に向けてテレビは量産され、一般家庭にも普及していった。
NHK放送文化研究所のNHK全国個人視聴率調査によると、38年にNHK総合でよく見られた番組トップ10は、全てが午後7時半以降の放送。うち5本は「事件記者」「若い季節」「花の生涯」などのドラマで、夜の家族だんらんがテレビ中心だったことがうかがえる。さらに20年後の58年の調査では、科学番組や朝・夜のニュースもトップ10に入り、生活の中にテレビが浸透していった。
人々が主にテレビに求めたのは報道と娯楽で、家庭では「娯楽の王様」として絶対的な地位を築いた。NHK紅白歌合戦は38年に視聴率81・4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。バラエティー番組からはザ・ドリフターズなどの人気者が生まれ、ドラマでは「おしん」(58年)が大ブームになり、石原裕次郎さんら時代を代表するスターが活躍した。
「スター」も死語に?
しかし、平成7(1995)年のマイクロソフト「ウィンドウズ95」発売をきっかけに加速したネット環境の普及に伴い、家での娯楽はテレビ以外にも、動画視聴や音楽配信など選択肢が増えた。また、報道もスマートフォンでニュースを見たり、SNS(交流サイト)で情報を得ることが一般化し、テレビの影響力は相対的に低下している。
藤田真文法政大教授(メディア学)は「今やテレビは最先端の流行を生み出すメディアではなくなった。人々の指向が拡散することで、スターという言葉も死語になるかもしれない」とする一方、「ドラマでもバラエティーでも毎日新しいコンテンツを生み出し続けているという点で、現在でもテレビを超えるメディアはない」と指摘している。
視聴時間は逆転
総務省によると、令和2年のテレビ(リアルタイム)視聴時間は、全年代で平日1日平均163・2分で、ネット利用の同168・4分を初めて下回った。また、日本民間放送連盟の遠藤龍之介会長は1月の定例会見で、ネットの出現によって「報道、エンタメなどいずれの分野も外資中心のコンペティター(競争相手)が増えてきた」と表明。テレビは接触時間、コンテンツともにネットに押される状況にある。
米動画配信大手のネットフリックスなどは、映画・テレビの既存コンテンツの配信だけでなく、日本でもコンテンツの制作に参入。番組配信では昨秋、NHKと民放の番組にネットフリックスが無断でCMを付けていたことが発覚して問題化するなど、権利関係の整理や広告ビジネスの構築などに課題が多い。
一方で、ネットをテレビ視聴の呼び水にする動きとして、見逃した番組をスマートフォンやパソコンで視聴できるサービス「TVer(ティーバー)」が台頭。昨年4月から民放キー局による夜の同時配信がスタートし、フジテレビ系ドラマ「silent」第4話は配信後1週間に582万再生を数えるなど、定着の兆しもみせている。
(油原聡子)