「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

湯浅よ、ダル&大谷に多くを学べ、WBCは守護神への短期集中講座だ

WBC日本代表に決定した阪神・湯浅京己=甲子園球場(撮影・甘利慈)
WBC日本代表に決定した阪神・湯浅京己=甲子園球場(撮影・甘利慈)

守護神襲名へ-湯浅はダル&大谷のエキスを〝短期集中〟でゲットしてください。第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック=3月9日初戦)日本代表に選出された阪神・湯浅京己投手(23)はあす2月1日から始まる沖縄・宜野座春季キャンプを途中で切り上げ、2月16日から日本代表強化合宿(ひなたサンマリンスタジアム宮崎)入り。岡田彰布監督(65)が今季の守護神に指名した右腕は世界の大舞台で貴重な経験を積むわけですが、ダルビッシュ有投手(36=パドレス)と大谷翔平投手(28=エンゼルス)らの侍ジャパン合流の時期が大幅に遅れそうな状況が明らかに…。湯浅は短期間でメジャーの教えを吸収することになります。

トラの命運にぎる湯浅

まさに岡田阪神の命運を握る右腕だと思います。昨オフの監督就任後、指揮官は昨季は最後まで定まらなかった守護神問題について「湯浅で行きたい」「最終的には湯浅で行こうと思っている」と今季でプロ5年目の湯浅の名前を事あるごとに挙げていました。

湯浅は独立リーグのBCL富山から2019年のドラフト6位で入団。プロ入り当初は腰椎の疲労骨折など故障に苦しみましたが、昨季にプロ入り初めて1軍キャンプに抜擢(ばってき)されると首脳陣にアピールを続けました。結果的に59試合に登板し、45ホールドポイント(43ホールド)を記録。中日のジャリエル・ロドリゲス投手とともに最優秀中継ぎのタイトルを獲得し、リーグの新人特別賞も受賞しています。

岡田監督は昨季、ストッパーも務めていた岩崎を元のセットアッパーに戻すことも明言していて、今季の虎のマウンドを締めくくるのは「ピッチャー湯浅」の腹積もり。2005年にJFKを構築してリーグ優勝した岡田監督の今季のV構想の根幹のひとつですね。

期待の右腕は1月28日にキャンプ地の沖縄入り。周囲の期待をヒシヒシと感じているのか「このキャンプは2週間くらいですけど自分の成長できる期間にしたい。その後にWBCがある中で、しっかり結果を出せるように調整したい」と熱く抱負を語っています。

大舞台、WBCは学びの塲

そう、チームの命運を握る右腕は初めてWBC侍ジャパンのメンバーにも選ばれました。なので2月16日集合のWBC宮崎強化合宿に向かいます。湯浅自身が話したように虎のキャンプは約2週間。そこからWBCで日本代表が勝ち進む先まで阪神には帰ってきません。阪神のアレ(優勝)の前にまずは世界一奪取へ貢献する-。湯浅は宜野座のブルペンでも「それ(WBC使用球)しか投げない」と話していて、完全な侍モードに入っていますね。

岡田監督が心配するのはソコです。WBC使用球を約1カ月も握っていて、シーズン開幕前にチームに戻り、公式球に対応できるのか…。「開幕直後は場合によっては外国人投手を暫定的に抑えにするかも…」とも話していますね。

確かにチームの命運を握る右腕が開幕直前まで帰って来ないリスクは大いに心配です。ただ、二塁手の中野と同様に、日本代表として世界の大舞台でプレーすることの経験値は今後の野球人生にとっては大きな財産です。韓国戦や勝ち進めばキューバや米国、中米の強豪国との厳しい戦いが待っています。そこで得たさまざまな教訓は虎の守護神としてチームに戻ってきたときに必ず役立つでしょう。さらに同じチームにはダルビッシュ有や大谷翔平らバリバリの現役大リーガーがいます。彼らから吸収できるものは大きいはずですね。

ただし、ひとつだけ心構えとして持っておかなければならない状況がありますね。当初は2月17日~27日の強化合宿(サンマリン宮崎)に参加できそう…と見られていたダル&大谷、それに鈴木誠也や吉田正尚(まさたか)ら大リーガーたちの侍ジャパン合流の時期が大幅に遅れそうなのです。

なぜか? 理由は保険の適応期間の問題です。WBCを運営するWBCIはある一定期間、参加する選手たちへの保険を保険会社にかけます。WBC参加中に故障し、メジャー開幕後の試合に出場できなくなった場合に備えるためです。離脱期間分の年俸は保険会社が所属球団に代わって支払うわけですね。MLB(大リーグ機構)とMLB選手会が同意した約束事です。

しかし、侍ジャパンの宮崎合宿はWBCIが契約した保険会社の保険適用期間には入りません。もしもダルビッシュや大谷が宮崎で何かあった場合、所属球団(パドレスやエンゼルス)はシーズン突入後も離脱中の両選手の年俸の支払いを〝自腹〟でしなくてはならなくなります。当然、これは回避(拒否)すべき事態です。なので保険が適用できない限り、ダルビッシュや大谷の強化合宿参加は認めない方針なのです。NPB(日本野球機構)とMLBは大リーガーたちの合流時期について交渉が続いていますが、今の段階の様子を表現するならば「極めて難航」ですね。

となれば、ダルビッシュや大谷らが侍ジャパンに合流するのは3月9日の初戦・中国戦(東京ドーム)の1週間前あたりか…。3月3日、4日と強化試合の中日戦(バンテリンドーム)が組まれています。その時期がXデーになりそうな雲行きですね。

ダル&大谷は生きた〝教材〟

話を戻しますが、湯浅にとって生きた教材ともいえるダルビッシュや大谷らと同じベンチやブルペンで同じ時間を過ごす期間は、極めて短期間となります。それでもダルビッシュや大谷の話に耳を傾け、マウンド上での心理や、対打者への駆け引きなど少しでも多くの〝お土産〟をもらうべきです。場合によってはお風呂やトイレにも同行して、気持ち悪がられるぐらいに密着してもいいかも…。〝短期集中〟で現役大リーガーのエキスを吸収してほしいものですね。

昨年の侍ジャパン強化試合でも登板した湯浅は、WBC使用球については「あまり違和感はなかったですね」と話していました。しかし、松やに成分を多く含んでいるロージンについては「慣れるのに苦労しましたね。手がネチャネチャして困りました」と話していました。こうした環境に順応して、WBCでは大活躍を見せてほしいものです。栗山監督も「抑えを任せる能力はある」と評価していますから、大事な局面で起用されるでしょう。日の丸を背負って投げることが投手としてのステージをさらに上げてくれるはずです。

そして、3月31日のシーズン開幕戦(DeNA戦=京セラ)では最終回のマウンドに立っているかもしれません。昨季は抑えの失敗から出だしで9連敗。同じ失敗は許されません。湯浅にかかる比重は重いです。ダルビッシュや大谷と接する短期間で何を学ぶのか…これも絶対的守護神への一里塚になるはずです。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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