31日の衆院予算委員会では、国会論戦の焦点となっている「次元の異なる少子化対策」をめぐり、岸田文雄首相と立憲民主党が激しい応酬を交わした。立民は前身の旧民主党政権が打ち出した所得制限を設けない「子ども手当」の創設に当時の自民党が反発したとして首相に反省を迫ったが、子ども手当は財源確保の見通しの甘さのために迷走し、頓挫した経緯には言及しなかった。
「子ども手当を創設するときに私たちが『子供の育ちを社会全体で応援する』と主張したら、自民党からは『(カンボジアの)ポル・ポト政権か』という発言があった。自民の理念が転換したのか疑問がある」
立民の長妻昭政調会長は、この日の審議で少子化対策を最重要政策に位置付けた岸田政権の本気度についてこう問いただした。長妻氏が問題視したのは子ども手当創設時の当時の自民の激しい反発だ。石原伸晃幹事長(当時)が「子供を社会でつくろうというポル・ポト派と一緒の考えに与(くみ)するわけにはいかない」と批判し、平成22年に民主党政権が子ども手当法案の採決を強行した際には、丸川珠代元五輪相が「愚か者めが!」と激しいやじを飛ばし、注目を浴びた。
長妻氏は所得制限のない子ども手当に反対していた自民が今度は児童手当の所得制限撤廃を主張していることを踏まえ「10年が経過して自民が変わったと信じたいが、反省と総括がなければ信じられるわけがない」と首相に迫った。首相は「節度があったかどうか振り返らなければならない」「反省すべきものは反省しなければならない」と語った。
ただ、長妻氏からは民主がマニフェスト(政権公約)の中核として「2万6千円」の支給を掲げたにもかかわらず、半額の1万3千円で始まり、わずか2年で終了したことを反省する言葉はなかった。
長妻氏は「この10年で自民党政権が少子化対策を遅らせたという自覚はあるのか」と批判を重ねたが、首相は安倍晋三政権のもとでの施策を踏まえ、「保育の受け皿整備や幼児教育・保育の無償化などさまざまな取り組みが進められた。保育所の待機児童も29年に約2万6千人いたのが昨年は3千人に減少した」と反論した。
立民との応酬の一方、首相は日本維新の会の岩谷良平氏との質疑では維新の本拠地の大阪府市政での教育無償化の取り組みについて「教育分野で負担軽減に向けて思い切った政策を取り入れていることは評価すべきだ」と持ち上げてみせた。先の臨時国会以降、立民への接近を強める維新を取り込み、共闘を分断するという首相の思惑が透けた形だ。(永原慎吾)