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歌手・石川さゆり<30>スーパー・ポジティブの夢は続く

石川さゆりさん(春名中撮影)
石川さゆりさん(春名中撮影)

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《芸能生活50年、石川さんを支えたのは旺盛な好奇心と〝スーパー・ポジティブ〟思考。母、様子さんと過ごした熊本で、あるシーンがあった》


以前、SL(蒸気機関車)好きというお話をしました。子供のとき、家の近くに白川という川があって、土手を渡ったところに鉄橋があった。自転車をこいでそこに行った。今だったらだめですよ、叱られます。そのころは柵もなく、レールに耳を付けてガタン、ゴトン、ガタンゴトンという音を聞く。友達と「誰が最後まで、音を聞いてられるか」ってドキドキする。ピーッと汽笛が鳴って、「キャーッ」と言いながら逃げて、汽車がダーッと通り過ぎて行く。小学校のころ、そんな遊びをしてSLが大好きになった。

いまのはD51だね、C56だねって音でわかる。汽笛の音も違う。ホームに入るとき、シュシューとトーンダウンする。「あ~あ、疲れた~」って聞こえて人間的で好きでした。

それで昨年3月、母と一緒に泊まった熊本駅近くのホテルで突然、「パァ~ッ」という音が聞こえてきたんです。えっ、SLが走ってる? 母は「そんなわけないじゃない」って。外を見たらモック、モックと煙が上がっていた。イベント列車だったらしいんですが、本当にSLが走っていたんです。

「これって(私への)祝福以外の何ものでもない」と思ったんです。熊本での50周年最初のコンサートへの祝福でしょ、吉兆でしょって。だからみんなから「スーパー・ポジティブ」って言われちゃうんですけどね、ハハハ…。最高だと思いません?


《創造の源である〝スーパー・ポジティブさ〟と好奇心は永遠なり。そして具現化する》


新しい歌を作るだけでなく、時間をかけても日本のいい音楽をもう一度、皆さんに知ってもらいたいという思いです。海外に行くと必ずCDショップをのぞく。その国の昔からある音楽、そのとき一番人気がある音楽と2枚買う。もし日本でそうなったら、外国から来た人は何を持って帰るんだろうか。歌舞伎というジャンルは海外に知られているけど、音楽では難しいかなって。なら何年かかるかわからないけど、日本古来の音楽を掘り起こそうと思ったんです。


《10年かけた「二十世紀の名曲たち」。そして「童~Warashi~」(昭和63年)、「民~Tami~」(平成31年)、「粋~Iki~」(令和2年)のJAPANシリーズ3部作は、30年余を費やした思い入れ深い作品》


最初の童謡は、それが作られた当時、あまり音楽的じゃなかったんです。アレンジしているときに日本独特の符割があって面白いなって。大人が聞いても耐えられ、子供も楽しんでもらえるようにしました。それから、じゃ民謡もあるって続け、お座敷の遊び歌の小唄、端唄、都々逸もまとめた。すべて網羅できるわけないですけどね。

でも日本に来た外国の方にも日本の音楽の良さ、いろんなジャンルがあるんですよって。もちろん日本の、いまの若い人にも聞いていただきたい。

ボーダーレスな時代です。世界に通用する日本の歌の作り方もあると思う。今後、そんな格好いい歌を、世界へ届けられたらいいかなという気もします。


《音楽界への功績で紫綬褒章(令和元年)などを受章し、現役の歩みも止めない。3月に石川さんを彩ってきた弦哲也さん、岡千秋さんらが集(つど)って楽曲を提供する〝祝い〟のアルバムとシングルの新曲も出す予定》


先生方からお祝いで、さゆりのために書いてくださる。歌い手として幸せです。50年の時が過ぎ、皆さんの応援とわずかな石川の頑張り、不思議な時代の風という後押しがありました。

これからの夢もあります。歌舞伎の方たちがなさっていた芝居小屋みたいなものを作って、私の思う、描いている音楽を伝えていけたら楽しいかなって。まだ頭の中だけですが…。


《未来へ。まだまだ続く》(聞き手 清水満)

=明日からプロボクシング元世界王者でタレント、ガッツ石松さん

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