またNHK大河ドラマの話題で恐縮だが、徳川家康は、計61作を数える作品で25作に登場している。信長や秀吉は無論のこと、武田信玄や井伊直虎を主役にしても戦国ものに家康は欠かせない。だからこその登場回数だが、今年の「どうする家康」ほど頼りない男として描いている例はない
▶三方ケ原の戦いで信玄に大敗した家康は、命からがら浜松城に帰城した。恐怖の余り、馬上で脱糞したと伝わるほど憔悴(しょうすい)し、下知を出せる状態ではなかった。偶然在城していた観世太夫が「弓矢立合」を舞って見せると精気を取り戻し、敗兵を収容するために大手門を開き、かがり火を盛んに焚(た)けと命じた。その様子に謀(はかりごと)を感じた武田勢は城攻めせず、家康は命拾いした
▶後世、徳川幕府は正月3日には御謡初(おうたいぞめ)を行い、5流儀の太夫が「弓矢立合」を競演した。あのひと舞いが「どうする家康」に決断させ、家運を開いたことに感謝してのことだ。伝統芸能は歴史を変える力も持つ。