福島大などの研究チームは31日、紀伊半島にすむ野生のニホンジカの遺伝子を調べた結果、奈良公園(奈良市)のシカが独自の遺伝子型を保っていることが分かったとする論文を米哺乳類学会の学会誌で発表した。園内にある世界遺産・春日大社の神の使い「神鹿」として千年以上前から人間の保護を受け、集団を維持してきたことを示している。
研究チームは三重、京都、奈良、和歌山4府県から野生の294頭分の筋肉や血液を収集。母から子に遺伝するミトコンドリアDNAの解析で全18種の遺伝子型が確認されたが、公園のシカは他では見られない1種のみが検出された。
さらに核DNAの解析で紀伊半島のシカは公園、半島東部、西部の3グループに大別。祖先集団から6~7世紀ごろ(古墳、飛鳥時代)に公園のグループが枝分かれし、16世紀ごろ(室町、戦国時代)には東部、西部の2グループに分かれたとの推定結果が出た。
春日大社の花山院弘匡宮司は「人々に守られ、崇敬されてきたシカが科学的にも大切なものだと分かり大変驚いている」と話した。