宗教法人法を問う

<特報>宗教法人1.5万超が「義務書類」提出せず、休眠状態増加浮き彫り 「脱法」売買の標的恐れ

文化庁が入居する建物
文化庁が入居する建物

宗教法人法で国や都道府県に毎年提出が義務づけられる報告書類について、全国1万5千以上の宗教法人が未提出だったことが30日、産経新聞が国と都道府県に実施したアンケートで分かった。全国約18万法人の1割弱に相当し、事実上の休眠状態の法人も多数含まれるとみられる。第三者に売却され、脱税などの不正に悪用される恐れもある。文化庁などが休眠と認定した法人は3千余りだが、実際はこの数倍の法人が売買の標的にされかねない状況だ。

旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題では、宗教法人への関与に消極的だった行政の姿勢が浮き彫りにもなった。宗教法人の売買も、文化庁が「脱法行為」と位置づけているが、禁止する法令はなく野放しとなっている。

宗教法人法は、法人側が役員名簿や財産目録など「事務所備(そなえ)付け書類」の写しを毎年、会計年度終了後4カ月以内に提出しなければならないと規定。怠ったり虚偽記載したりした場合は過料の罰則もある。

産経新聞が昨年末、文化庁と47都道府県に実施したアンケートによると、令和3年12月末もしくは4年3月末までの1年間(一部終期が異なる)で、備付け書類を提出しなかった法人数は1万5千を超えた。

所轄法人の多い兵庫県や京都府などでは1千を超えており、都道府県をまたぐ法人を所轄する文化庁では数十程度あった。

文化庁と都道府県は、1年以上宗教活動をしない▽1年以上代表者がいない▽2年以上礼拝施設がない-などいずれかの要件を満たした全国3348法人(3年12月末時点)について、脱税などに悪用の恐れがある「不活動宗教法人」と認定している。合併などが難しければ、各種法令違反が理由となったオウム真理教などと同様、裁判所に解散命令を請求する対象となる。

文化庁などによると、期限を1年以上過ぎてなお備付け書類が未提出だった全国の法人は、平成29~令和2年分でも1万を超えていた。これらの中には、不活動法人の要件に当てはまらなくても、信者離れや資金不足、後継者の不在などに直面して事実上の休眠状態にある法人も多いとみられ、「法人格の売却を望むケースもある」(仲介業者)という。役員の交代などで正規の手続きを踏めば、行政側に売買を止める手立てはない。

文化庁の担当者は「犯罪の温床になりうる法人を減らす必要があるという危機感は都道府県と共有している。しかし、現行法は権限が限定的で、売買に潜む思惑までは暴くことができない」と話している。(「宗教法人法を問う」取材班)

宗教法人 教義を広めるとともに儀式を執り行い、信者を教化、育成することなどを目的とし、都道府県知事もしくは文部科学相の認証を経て法人格を取得した宗教団体。お布施など宗教活動で得た収入は課税されない。文化庁によると、令和3年12月末時点で全国の法人数は17万9952団体。届け出に基づく宗教団体の信者数は、日本の人口よりも多い1億7956万113人とされる。

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