大阪市阿倍野区で家具量販大手ニトリの店舗が3月下旬にオープンする。かつて、この地にはシャープの本社があり、100年前の関東大震災で東京の工場や家族を失った創業者、早川徳次氏が再起を図った「第2の創業の地」でもある。経営危機に際し、平成28年に旧本社をニトリホールディングス(HD)側に売却。台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下入りした後、買い戻しを打診したが実現しなかった。シャープの本社は、液晶パネル工場のあるグリーンフロント堺(堺市堺区)に移転したが、社員らは今も「本社は元の場所がいい」と話す。
「ここまでやる」の覚悟
大阪メトロ御堂筋線の西田辺駅を出て東に歩くと、すぐに工事が続くニトリ西田辺店(仮称)が姿を現す。道路の向かいには「SHARP」の看板を掲げ、シャッターを下ろしたシャープの田辺ビルがある。旧本社は経営危機に伴い売却対象になり、当時の高橋興三社長は27年5月の記者会見で「本社を売却してでも構造改革を遂行したいという強い意志と考えてほしい」と訴えた。
当時の有価証券報告書によると、旧本社と田辺ビルを合わせた帳簿価格は約34億円。「本社は質素にして工場に金をかけるのがシャープ流」と胸を張ったメーカーとしての矜持の象徴だったため反対の声も上がったが、巨額の貸し出しで経営再建を支えていた主力取引銀行に対して「ここまでやる」と覚悟を示す意味があった。