国の認定数をはるかに上回る宗教法人が休眠状態に陥っている可能性が、産経新聞のアンケートで明らかになった。宗教法人は、お布施など宗教活動上の収入に法人税が課されないなど税制上優遇され、収支は一般に公開されない。憲法20条に定める「信教の自由」を保障するための措置だが、そうした目的に反して法人格の悪用を狙うケースは少なくなく、休眠状態の法人などが売買される「闇市場」に流出する恐れもある。
宗教活動収入は非課税
「脱税をもくろむ人だけでなく、暴力団関係者からも宗教法人を買いたいという相談がある」。法人売買の仲介業を営む男性が産経新聞の取材に応じ、闇市場の実態を明かした。
宗教法人に反社会的勢力も触手を伸ばす理由の一つは、優遇措置があるためとされる。宗教法人がお布施やお守りの授与などで得た収入は、宗教活動に基づく非収益事業とされ、法人税が課されない。収益事業は課税対象だが、税率は一般企業が15~23・2%なのに対し、宗教法人は15~19%に軽減される。
しかも、所轄庁である国や都道府県に毎年写しを提出する「事務所備(そなえ)付け書類」のうち、収支計算書は①収益事業を行っている②8千万円以上の収入がある-などに該当しない限り提出する必要がない。
数年前、ある上場企業経営者の代理人が、休眠状態になった法人の買収話を男性側に持ち掛けてきた。ルールに従って遺産を分けると億単位の相続税がかかるため、法人への寄付という形で財産の移転をもくろんだという。別の仲介業者によると、親族の散財で経営難にあえいでいた寺院の住職側が法人格と不動産を手放そうとした際に、暴力団関係者が買収の相談に訪れたこともあった。
取引相場は3千万円~
宗教法人の売買は、文化庁が「脱法行為」と位置づけているが、買い主が売り主に合意額を支払い、役員の交代を登記すれば違法性はない。仲介業者の男性によると、法人格の取引相場は3千万~5千万円程度。これに土地や礼拝施設など不動産の価格が上乗せされる。
売買には宗教目的か否かを問わず、さまざまな形がある。宗教事情に詳しい関係者によると、寺院の住職が後任に法人を委ねる場合、後任から前任に老後の生活を保障する意味合いで「退職金」が支払われることがあるという。結局、文化庁は脱法を区別する線引きを設けておらず、売買自体を禁じる法令も整備していない。
とはいえ、宗教目的以外で法人格の売買が表沙汰となれば、所轄庁や税務当局による監視の目が厳しくなることが想定される。仲介業者の男性は「基本的に交渉は水面下の闇市場で進められ、取引成立後は売り主も買い主も売買について口をつぐむ」と打ち明ける。
不活動「予備軍」が対象に
産経新聞のアンケートでは、全国約18万に上る宗教法人のうち、1万5千超の法人が備付け書類を期限を過ぎても提出していなかったことが判明した。このうち、長期にわたり休眠状態が続く「不活動宗教法人」に3348法人(3年12月末時点)が分類されている。
宗教法人法では、オウム真理教のように法令違反が判明したほか、不活動法人も解散命令の対象になる。所轄庁が法人を調査し、裁判所に解散命令を請求する仕組みだが、調査は手間がかかる上に人員にも限りがあり、休眠状態にありながら不活動法人と認定されていない法人も多い。
仲介業者の男性は「不活動法人の『予備軍』の多くは経営が行き詰まっており、売買の対象になりやすい」と説明する。
全国の仏教系寺院は約7万7千。信者離れや後継者の不在といった事情で住職がいなくなった「無住寺院」は約2万に上るとの推計もある。少子高齢化を背景に信者が減少の一途をたどる地方では、法人の休眠化が特に深刻とされる。
ある県の宗教関連業務の担当者は「宗教法人を解散させることは、設立を認めることよりもはるかに難しい。休眠状態の法人は今後さらに増えるとみられ、法整備を含めた新たな対策が必要だ」と訴えている。(「宗教法人法を問う」取材班)
宗教法人の解散命令 宗教法人法は、文部科学相や都道府県知事、検察官などの請求に基づき、裁判所が宗教法人に解散を命じることができると規定。「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」がある場合の他、1年以上活動していない法人などに適用される。命令を受けると宗教法人格を失い、税制上の優遇を受けられなくなるが、解散後も任意の宗教団体として活動を続けられる。
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