新型コロナウイルス禍によるネット通販の拡大を背景に、駅などに設置された「スマートロッカー」を通じた商品のやり取りが広がっている。直近では生鮮食品などを扱う冷蔵ロッカーも登場した。注文商品が最寄りの物流倉庫や店舗などから利用者の手元に運ばれるまでの最後の区間「ラストワンマイル」は、労働力不足が懸念される宅配業者にとっても人手を要する工程だけに、こうした取り組みが負担軽減につながることが期待される。
30日午後、東京都新宿区の西武新宿駅券売機付近。コインロッカーのような形状のスマートロッカーの前で、利用者の女性がスマートフォンを30秒ほど操作すると一室が開錠され、中から事前に購入していたイチゴを取り出した。商品は利用者が指定した時間や場所に応じ、あらかじめ受注店舗側が届けておく。
これは専用アプリで決済した商品をロッカーで受け取ることができるサービス「BOPISTA(ボピスタ)」。西武ホールディングス(HD)が、スマートロッカーを製造・販売するSPACER(スペースアール、東京)などと実証実験を進めている。
専用ロッカーは同駅をはじめとする西武鉄道の主要駅に加え、都心部の複合施設など計10カ所に設置。24時間利用可能で冷蔵ロッカーを備えている。商品代のほか、400~800円のサービス利用料を支払うことで、会員制大手スーパー「コストコ」などの商品を受け取れる。通常のコインロッカーとしての利用も可能(冷蔵ロッカー除く)で、実証実験ではどちらの用途で使われることが多いかなども検証する。
スマートロッカーを活用したサービスを巡っては、ネット通販大手Amazon(アマゾン)が「Amazonロッカー」を展開。同社サイトで注文した商品を、31都道府県の鉄道駅やドラッグストアなどにある3千台以上のロッカーで受け取れる。設置台数は年々増えるなど好評という。
また、JR西日本とダスキン、スペースアールの3社は昨年10月から、大阪市内のJR3駅に設置したロッカーで衣類の受け渡しをする洗濯代行サービスの実証事業を実施。スペースアールの徳永大輔最高執行責任者(COO)は、実証事業で得た知見を今後のサービス展開に生かし、「あらゆるものがロッカーで受け渡しできるようにしたい」と語る。
ラストワンマイルを省略する取り組みは、利用者が指定時間帯に自宅で待機する必要がなくなるほか、再配達の増加などに伴う宅配業者の労働力逼迫(ひっぱく)を軽減することが期待される。宅配大手のヤマト運輸もグループ会社で同種の取り組みを進めているという。
都市物流に詳しい東京海洋大の苦瀬(くせ)博仁名誉教授は、スマートロッカーサービスを「商品受け取り方法の多様なニーズに応える一手段として有効」と評価。一方で「ロッカーの設置・運営費などの負担を整理し、顧客からサービスに見合う対価を得なければ長続きしない」と指摘した。
(野村憲正、福田涼太郎)