「(中国公船の)海警1304(ひと・さん・まる・よん)、日本の領海から直ちに退去せよ」-。沖縄県石垣市が29、30の両日に実施した尖閣諸島(同市)の現地調査は、懸念された中国側の妨害もなく、無事終了した。だが、領海侵入した中国公船と海上保安庁の巡視船が激しくせめぎ合う様子は調査船からも見てとれ、現場は一時緊迫した空気に包まれた。初めて同行取材した産経新聞記者が、調査の舞台裏を追った。
「尖閣は日本領」
調査船の操舵室に設置してある国際無線から緊迫した声が流れてきたのは、30日午前3時5分だ。
「海警1304、こちらは日本国海上保安庁巡視船である。貴船は日本の領海に侵入している。貴船の航行は無害通行とは認められない。日本の領海から直ちに退去せよ」
前日午後5時に石垣港を出港して10時間余り、石垣市がチャーターした調査船は尖閣諸島の魚釣島沖合約35マイル(約56キロ)を航行し、領海には達していなかったが、すでに中国公船が侵入して待ち構えていたのだ。
海保からの日本語と中国語での警告に、中国公船は直ちに反発した。
「こちらは中国海警船隊である。貴船の主張は受け入れられない。釣魚島(魚釣島の中国名)などは中国の領土である。周辺12カイリは中国の領海である」
すぐに海保が抗議する。
「尖閣諸島は日本の領土である。貴船の主張は受け入れられない」
こうしたやり取りが頻繁に繰り返された。
レーダーの船影
30日午前6時、調査船は魚釣島周辺の日本の領海内に入った。日の出前で外は真っ暗だが、中国公船が接近し、それを海保巡視船が阻んでいる様子は、調査船のレーダーにも鮮明に映し出されていた。
レーダーの中央に位置する調査船の左右と後方に、船影が3つ浮かんでいる。海保巡視船だ。少し離れた左側にも船影が2つある。これは中国公船だ。しかし別の船影2つがぴったりと張りついている。海保巡視船がスクラムを組み、中国公船を調査船に寄せ付けないでいるのだ。
海保巡視船の徹底的なガードは、夜明けとともにさらに明らかになった。
調査船の左右に2隻ずつ、後方に1隻の計5隻が一定間隔で航走し、魚釣島近くにも1~2隻が待機している。早朝から中国公船が姿をみせると、2隻で挟み込むように並走し、接近を防いだ。
毅然と対応を
今回の調査で最も懸念されたのは、ドローンを使った初の上空調査で、中国側が電波妨害などを発し、ドローンが落とされることだった。
だが、海保巡視船が中国公船を近くに寄せつけなかったこともあり、調査は無事成功した。
市から委託を受けた東海大研究チームのメンバーは「上空調査が成功した意義は大きい。映像を詳しく分析することで、新たな発見があるかもしれない」と期待を膨らませる。
ただ、尖閣諸島周辺で中国側が挑発行為をエスカレートさせているのも事実だ。
中国公船が尖閣周辺の接続水域で確認された日数は昨年、過去最多の336日に上った。
調査に同行した友寄永三石垣市議は「日本が毅然とした対応を示すことこそ、この問題にピリオドを打つ近道になるのではないか」と話している。(川瀬弘至)