新型コロナウイルスの世界的流行で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」が宣言されから、30日で3年となる。世界の人々は今、どのような生活を送っているのか。年末年始に感染が再拡大した米国、徹底した対策を突然撤回し、感染が急拡大した中国の様子を紹介する。
米国では年末年始に新型コロナウイルスの感染が再び拡大した。だが、市民は感染を警戒しつつも、仕事や娯楽のために街へ出て、日常の生活を取り戻そうとしている。
米国では感染力が強いとされるオミクロン株の派生型「XBB・1・5」に主流株の置き換わりが進む。米疾病対策センター(CDC)によると、その検出率は28日までの1週間で新規感染者の6割を超える見通し。ニューヨーク州を含む東部では9割に迫る勢い。
ニューヨーク駐在の日本人の間でも年明けに「コロナにかかった」「私もだ」と会話が交わされた。クリスマスや冬休みで屋内に人が集まる機会が増えたことに加え、XBB・1・5が広がったことが原因だった可能性がある。
年明けに感染者数は減少に転じたが、この冬はインフルエンザやRSウイルスも流行し、美術館や劇場などの施設は来場者にマスク着用を強く推奨。米食品医薬品局(FDA)は新型コロナのワクチン接種をインフルエンザの予防接種と同様に原則年1回とする案を検討中だ。
ただ、市民は淡々としている。ニューヨークのビルでドアマンを務めるカルロスさんは「対面の仕事なので感染リスクを恐れていたら生活できない」と話す。ウォール街で働くイリーナさんは「年末に夫婦で感染したが、重症にならなかった。新型コロナは今後、インフルエンザのようになるのでは」と語った。
一方、新型コロナに伴う行動規制の緩和で経営者の多くが従業員に出社を促す中、金融の中心地ウォール街では平日の通勤時間にもかかわらず、混雑していないのが目に付いた。
オフィスビルの入退出システムを管理するキャッスル・システムズ社によると、今月18日時点のニューヨーク都市圏の出社率は47・2%。ロサンゼルスなどを含む10大都市圏の平均も49・5%だった。出社率の低さは、新型コロナ流行が完全に収束していないことのほか、在宅勤務の定着も影響しているとみられる。イリーナさんも「出勤は週3日」だという。(ニューヨーク 平田雄介)
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中国では昨年12月上旬、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に食い止める「ゼロコロナ」政策を唐突に撤回したのを機に、国民の生活が一変した。
それまで国民は、自宅がある居住区やスーパーに入るにもPCR検査の陰性証明の提示を求められ、毎日のように検査を受ける必要があった。だが、そうした作業は突如不要となり、長い行列が連日できていたPCR検査場の多くは今、物置小屋のようにほこりをかぶっている。
ゼロコロナ政策撤回によって各地では今年1月にかけて爆発的に感染が拡大。死者も急増した。当時、電話やメッセージアプリでは「もう感染した?」と聞くのがあいさつ代わりになった。数日の間にスタッフの大半が感染して営業が困難となった飲食店や企業も珍しくなかった。
それでも多く人々はゼロコロナ政策が終わったことに安堵(あんど)しているようだ。北京で働く30代の女性会社員は「PCR検査が不要になり、隔離される心配もなくなった。政府の判断は悪くなかった」と語る。「中国のハワイ」とも呼ばれる海南省の三亜(さんあ)市に北京から旅行した40代の自営業女性も「生活が便利になったので良かった。自分も昨年12月に感染したが症状は軽く、新型コロナなんて大したことはない」と笑った。
1月下旬の春節(旧正月)の大型連休にあわせ、多くの人が帰省や旅行で北京を離れた。移動制限がなくなったため、数年ぶりの帰省者が多い。
当局側も一変した。ゼロコロナ政策下では感染に伴うリスクを強調したが、今や「新型コロナを恐れる必要はない」との宣伝を展開している。再感染する可能性などは十分に周知されておらず、地方都市では感染経験者の中でマスクを着用しない人も増えている。(北京 三塚聖平)