マラソン・駅伝用シューズの市場で、国内メーカーのアシックスとミズノが巻き返しに懸命だ。米ナイキの革新的な「厚底シューズ」に一方的に押された時期もあったが、アシックスは3種類の厚底シューズを投入してシェアを挽回。ミズノも今月、斬新な構造のシューズを発売して反転攻勢に出る構えだ。マラソンシーズンが本番を迎える中、選手たちの快走を支える最新シューズの動向にも注目が集まっている。
箱根の屈辱乗り越え
ランニングシューズの国内販売戦略で最も重視されるのが、正月に行われる東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)だ。2日間にわたりテレビ中継される国民的イベントでは、有力選手がどのシューズを履くかも競技者やファンの間で大きな話題となる。
かつては大半の選手が国内メーカー製を履いていたが、2017(平成29)年にナイキがレース用の厚底シューズを発売し、箱根駅伝でのシェアも急拡大。21年大会では選手の95%がナイキ製を履き、アシックスは着用者ゼロ、ミズノは1人と屈辱を味わった。
しかしアシックスは21年、ランナーの走り方に合わせた2種類の厚底シューズを発売。22年には3種類に拡大した。この結果、箱根駅伝でのシェアは「22年は11.4%、今年は15.2%まで戻した」(広報担当)。今年はアシックスを履いた選手2人が区間賞獲得も果たした。
ミズノは22年大会で着用者2人、今年は1人と苦境が続いているが、今年の大会開幕に合わせて1月2日に新型シューズを発表。テレビやSNSで積極的にプロモーションを展開してきた。
実は昨年(22年)の大会で、選手の1人がミズノの新型シューズのプロトタイプ(試作品)を履いていたという。ミズノはその内幕を明かす異例の記事まで自社のウェブサイトに掲載するなど、PRに余念がない。
独自技術でアスリートを支える
アシックスが展開するトップ選手向け厚底シューズ「メタスピード」シリーズは、ソールの厚さや形状、クッション材に挟みこむカーボンプレートの角度を変えた3種類を用意。歩幅が長い「ストライド走法」、足の回転が速い「ピッチ走法」、その中間的な走り方―のどのタイプの選手も最適なシューズを選べるのが特徴だ。
開発したアシックス「Cプロジェクト」の竹村周平部長は、選手の声を聞く中で3種類のアイデアが生まれたと説明。「アスリートの声を一番大事にしている」と強調する。
ミズノは、トップ選手の多くが土踏まずよりつま先側(前足部)で着地する「フォアフット走法」であることに注目。1月20日に店頭販売を開始した「ウエーブリベリオンプロ」は、かかと部分のソールが削り落とされたような外観とし、前足部着地で効率よく快適に走れる構造を追求している。市場投入に時間を要したのは、試作品を履いた選手の反応を慎重に見極め、素材や構造の改良を重ねたからだという。
「もっともっと広めたい」
ただ、市場ではナイキやアディダスが販売で先行しているほか、プーマ、ブルックス、ホカなど多くの海外メーカーがレース用厚底シューズを投入してしのぎを削っている。国内メーカーは、独自性や優位性のアピールが課題だ。
アシックスは、3種類のシューズを実際に履き比べられるよう、スポーツ専門店などで試し履きや試走ができるイベントを積極的に開催。また、国内外のトップ選手と契約してシューズを提供し、認知度アップに努めている。竹村さんは「もっともっとアスリートに広めて、活躍をサポートしていきたい。『こんなもんじゃない』という思いで取り組んでいる」と意気込む。
ミズノはウエーヴリベリオンプロが発売直後のため、これから全国各地で行われる市民マラソン大会の会場で試し履きブースを出展するなど、ランナーとの接点を増やしていくとしている。(上野嘉之)