近ごろ都に流行るもの

長寿化で進む 犬猫の認知症対策 療法食やサプリ 手作り歩行器も有効

認知症など、ペットの長寿化に伴う診察が増えてきた=東京都世田谷区の駒沢どうぶつ病院(重松明子撮影)
認知症など、ペットの長寿化に伴う診察が増えてきた=東京都世田谷区の駒沢どうぶつ病院(重松明子撮影)

ペットの犬猫の平均寿命が伸びている。昨年12月に発表された「アニコム家庭どうぶつ白書」によると、犬は14・1歳、猫は14・4歳と調査開始以来最長。喜ばしい半面、老化に伴う健康問題とどう向き合うか、飼い主の責任は重い。大切なのは早めの気付きだ。夜鳴き、ふらつき、トイレの失敗…、それらは認知症のサインという。幸せな時間を長く過ごすために、手遅れになる前に対処を。療法食やサプリメントも有効といい、動物病院では早めの受診を呼びかけている。(重松明子)

早めの処置で機能回復

「よしよし。落ち着いているね」。駒沢どうぶつ病院(東京都世田谷区)の田部(たなべ)久雄院長(66)が聴診器を手に話しかける。診察されているアランはトイプードルの雄、17歳6カ月。昨年9月。夜中に突然「ウォーン」と夜鳴きし、前脚をかいて大暴れした。

「ご近所迷惑も心配。家族は眠れませんでした」と、飼い主の山中和代(56)さんと長女の綾乃さん(26)。診断は認知症。「睡眠導入剤などはさめると戻る」との判断で薬は使わず、ペット用の療法食とサプリが処方された。「すぐに、ほえも暴れも収まり安心しました」

アランを抱く山中さん親子は、ほっとした表情だ。

「夜鳴きは時間感覚がわからなくなって起こる。歩行障害も認知症の症状」と田部院長。「タンパク質をしっかりとる適切な食事と運動で、脳をコントロールしてあげることが大切です。手作りの歩行器との相乗効果で、ここまで良くなりましたね」

その歩行器は綾乃さんがインターネットで作り方を調べ、パイプと車輪、バスマットを組み合わせて約5千円の材料費で製作したものだ。これで散歩が再開できた。また、視力の低下で皿から餌を食べられなくなったため、しゃもじで与え、水もペットボトルに付ける専用ノズルで飲ませるなど心をくだいている。

飼い主手作りの歩行器でシニア犬の運動量を確保。視力低下のため、専用ノズルから直接水を与えている=東京都世田谷区の駒沢どうぶつ病院(重松明子撮影)
飼い主手作りの歩行器でシニア犬の運動量を確保。視力低下のため、専用ノズルから直接水を与えている=東京都世田谷区の駒沢どうぶつ病院(重松明子撮影)

「飼い主はシニア犬だからと遠慮しがちですが、田部先生は逆にいろいろと尋ねてくれる。問題が起きたときは動画を見せて相談しています」と山中さん。

21歳の雌猫など現在6匹の認知症治療にあたる田部院長は「早めの対処で回復できる機能もある。変化に気付いたらすぐに受診させてほしい」と呼びかけた。

取材の帰り際「ありがとう」とアランの頰をなでると、前脚を出して握手を求めてきた。ボケてないよ! そんな声が聞こえた気がした。

ペットの長寿化に伴い注目される、認知症対策の療法食やサプリ。獣医師の診断に基づき、指導管理や経過観察を受けるもので一般販売はしていない。同院で処方されていた療法食はチキン味で、特発性てんかんや認知機能不全に配慮した成分を配合。「興奮性の神経伝達を抑制し症状を抑えていく」という。

また、サプリ「ガードワン」は、平成29年に日本認知症予防学会に初めて認定された人用サプリ「フェルガード」を応用して開発され、昨年から実用化。「主成分の米ぬかに含まれるフェルラ酸が、認知症の原因とされているアミロイドβの蓄積を抑えるなどの作用があります」と製造発売元のグロービアの担当者。

ペット用にも処方が進むフェルガードを含め、250の動物病院が導入している。飼い主の費用負担は処方量により幅があるが、月額、体重5キロ以下5500円、体重6~10キロ8250円など。「日本ではペットの認知症予防という概念がまだ広まっていませんが、10歳(人間で60歳前後)くらいからの予防で使って頂ければ健康寿命を延ばし、楽しい老後に役立てると思っています」

年を重ねれば病気が増え、容貌やしぐさや反応も変わる。永遠にピチピチでいられないのは人と同じだ。まさに超高齢社会。老犬や老猫が老人と暮らす姿も多々見かける。必要なのは健康的な食事と運動、介護などの備え、そしてやさしさ…。手を取り合って、幸せな時間をつくっていこう。

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