話の肖像画

歌手・石川さゆりさん<27>コロナ禍の八ケ岳ライブ 涙で、歌えなくて

平成31年4月、公演を控えて
平成31年4月、公演を控えて

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《活動を制限されたコロナ禍で新たな挑戦。YouTube開設(令和2年5月16日)とアコースティックライブ》


音楽を届けたいのに、自粛でどこにも行けない、動けない、誰とも会えない。でも歌を聞きたい人は待っているんだからって、YouTubeを始めた。最初はピアノとチェロだけでしたが、文明の利器(リモート)があるから音楽仲間と結集してやりました。どんな状況でも歌は作れるって、それができたことは良かったですね。

皆さんの反応としては、うちの町にも来てほしいと。でもいざ行こうとしても、会館は貸せないこともあったり、東京からの移動はダメだったりねぇ。

YouTubeだけでなく、いままでやったことのないアコースティックライブも。音楽仲間と集まって、こんなときでも何か発信すべきだって。(移動制限が解除されても)入場制限があって、満席にはできない。でも歌いたい。

じゃいつもの形態(フルバンド)を度外視して、小さいもので、とにかく行こうよって。編成もピアノ、ギター、バイオリン、サックスなど基本は4人、リード楽器とベースを入れた編成もありました。A、Bと2つのチームに分け、ローテーションを組んで、みんなでコロナを乗り切ろうってなったんです。


《9月20日、長野・八ケ岳高原音楽堂での初ライブは4人編成、定員250人に約80人…》


7カ月ぶりだったんです、皆さんの前で歌ったのは…。1曲目から涙が出て本当に歌えなかった。何なんだろう、この感情は…。いままで40年、45年も歌ってきたのに、当たり前だったのが、そうじゃない。日常の当たり前というのが崩れるんだって。今のウクライナを見てもそうでしょ。何が起きるかわからない。そうであるなら自分の毎日をもっと大切に、優しく、思いっきり楽しく過ごさないといけないですよね。

皆さんに久しぶりにお会いして、そう思いました。

《翌3年は北は北海道、南は沖縄まで全国を巡り、昨年も続行した。間近で見られるということで大好評…》


小さな編成なので、身軽でしょ。石垣島にも初めて行きました(10月31日)。その後、沖縄本島にもね。直接、お客さまに会えることがうれしかった。だからどういう状況でも、私たちの〝どうにかしよう〟という思考があれば、見つけていける。

私のモットーって「大胆〝素敵(すてき)〟」なんですが、「やってみなけりゃわかんない」ですよ。


《YouTubeとアコースティックライブは、ともに第1回のオープニング曲は「ウイスキーが、お好きでしょ」(詞・田口俊、曲・杉真理、平成3年2月21日発売、55枚目シングル)。石川さんの新境地を刻んだ名曲は聞く者の心を癒やす…》


本当にきれいな曲ですよね。サントリーさんのコマーシャルソングとして作られ、クレジット表記は「Song by SAYURI」。それって誰?って、当時反響がすごかった。会社は石川さゆりでCDを出そうとしたんですが、私がSAYURIにこだわったんです。

それまでのイメージとはまったく違ったジャジーな曲調でしょ。ジャケットに顔も出してない(イラストで描かれ、ウイスキーが注がれた2個のロックグラスだけ)。皆さんが感じる、この歌のすてきなイメージを広げられたらいい。歌の持つ命の膨らみ方というのを考えたとき、その方がいいのかなって。


《平成21年以降、サントリーがゴスペラーズのアカペラバージョン、竹内まりやバージョンでCMに起用。多くのアーティストがカバーして世に浸透…》


こんな曲も歌うんだって。皆さんの耳になじんでいくと、何を表現していっても、何を歌っていっても、それも〝さゆりの世界なんだね〟と徐々に認めていただけるようになった気がします。今でも色あせない曲です。(聞き手 清水満)

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