「60代以上が好き」…高齢男性71人から3億円詐取した28歳看護師女の巧妙手口

60代以上が好き-。マッチングアプリにそう書き込んだ女は、甘い言葉で次々と中高年の男性を籠絡していった。アプリで知り合った50~70代の男性17人に交際をにおわせて約2億円をだまし取ったとして、大阪府警は詐欺の疑いで、看護師の女(28)を逮捕、送検した。詐取した総額は、わずか1年余りで約3億2千万円。親子ほど年の離れた中高年の恋心を弄んだその手口とは。

初対面で真剣交際におわす

《60代の男性と付き合ったことがあります》

令和3年3月9日。近畿地方に住む60代男性の目に留まったのは、アプリで交際相手を募る「さき」と名乗る20代の女性だった。男性が連絡をするとすぐに返信があった。「60代以上の人、好きです」。やり取りを重ね、数日後に初めて対面した。

さきは、初対面ですぐに真剣交際をにおわせてきた。結婚願望があった男性にとっては、理想的な展開だった。さきは男性に交際を意識させると、切り出した。「奨学金を返済するためにお金を貸してほしい」。男性は疑うことなく応じた。

その後もさきは、さまざまな理由をつけては金を求めた。結婚を意識していた男性は金を払い続け、初対面から約3カ月で、約5700万円に上った。

しかし、男性が思い描いた2人の将来は、予想もしない形で打ち砕かれる。2人が対面して半年後の3年9月7日。さきは大阪府警に逮捕された。

「大好きだよ」を信じ

マッチングアプリで知り合った中高年の男性から多額の現金を詐取したとして、大阪府警刑事特別捜査隊が詐欺容疑で逮捕した西村恵梨奈容疑者が「さき」の正体だった。

西村容疑者は指示役の吉田清一容疑者(51)と共謀。複数のアプリで60代男性との交際経験をアピールし、男性から接触があると交流サイト(SNS)の連絡先を交換し、数日のうちに会っていた。

場所はコンビニのイートインコーナーやビジネスホテルで、西村容疑者は「気が合うから長くお付き合いしたい」と交際の意向を伝えてから本題に入る。

「奨学金を返さないと弟が貸してもらえない」「カードローンの利子が高くて困っている」…。男性との対面は、会話の中で相手の資産状況を探るいわば〝面接〟だった。懐事情に応じて求める金額を調整し、受け取り方も手渡しや振り込みなど、相手や会話の流れで使い分けた。わざわざ借用書を作成することもあった。

より多額の現金を引き出すため、食事に行ったり、SNSでメッセージを送ったりすることも欠かさなかった。「大好きだよ」「今日はカップル記念日だね」。2年7月から逮捕される3年9月まで、スマートフォン越しの甘い言葉にだまされた男性は71人。その平均年齢は61歳だった。

言い出せぬ被害男性の事情も

府警の捜査で判明した被害総額は約3億2千万円。ただ、捜査幹部は「だまされたことを隠して被害届を出していない人もいると考えられる」と明かす。

西村容疑者が使っていたアプリには再婚相手を探す中高年向けのものも含まれていた。被害男性の多くは未婚だったが、既婚者であることを隠して使っている人も。そのため、家族に知られることを嫌って被害を隠している利用者がいる可能性もあるという。

アプリで知り合った男性と食事などをして現金を受け取るという構図は、若い女性がデートの対価に金銭を受け取る「パパ活」と同じだが、捜査幹部は「被害男性は真剣に交際をしていると思っており、パパ活という認識はない。男性側の気持ちを利用した悪質な詐欺だ」と話す。

西村容疑者は、金は指示役の吉田容疑者に渡していたと説明。過去に吉田容疑者の会社で働いたことがあり、「株取引の指南を受けた。大きな損失を出した責任で詐欺をさせられた」のだという。

吉田容疑者は府警の調べに黙秘。71人が詐取された金の使い道は、明らかになっていない。(小川恵理子)

会員限定記事会員サービス詳細