《「津軽海峡・冬景色」などの作詞家、阿久悠さんが平成19年8月、作曲家、三木たかしさんが21年5月に逝った。「天城越え」などの作詞家、吉岡治さんも22年5月に旅立った》
毎年のように私の大切な先生方、恩師が天国へ行かれてしまった。自分の歌を作る方がいなくなっちゃったと思うと、「これからどうするんだ、私」と本当に思ったんです。そんなとき、吉岡先生の奥さまの久江さんからこう言われたんです。
「あのね、パパの歌は二度と絶対に、新しい歌は生まれないよ。でもあなたは、まだ歌っていかなきゃならない人だから、これから新しい歌を作らなきゃいけないし、出会わなきゃいけないのよ」って。そうなんだよなって。じゃ、どうしたらいいんだろう。いろんな人たちと出会って、今までやってこなかったような作品作りをしていかないと、もう自分の歌う歌は生まれない。そこで異ジャンルの方々と一緒にアルバムを作るという企画を考え始めたんです。
それも石川さゆりに書く歌だから、〝さゆりの歌へ〟というなびき方をしない、そういうアーティストです。阿久先生、三木先生、吉岡先生のように「この歌は、ああだ、こうだ」と言いながら作品を作るという感じはない。自由に〝今の空気を届ける〟がテーマでした。
《歌謡曲・演歌の壁を越え、音楽的にバックボーンが異なるアーティストとの共演。第1弾「X―Cross」(平成24年9月発売)は、THE BOOMの宮沢和史さん、くるりの岸田繁さんらとのコラボ…》
くるりとのコラボは、京都音楽博覧会2011(平成23年9月)でした。「野外なんですが、来てください」という誘いがあった。「私が外で歌ったら、〝昼間のお化け〟みたいで変じゃない」って言ったんですよ。参加の決め手はSL(蒸気機関車)の機関区跡の公園が会場だったこと。SL大好きなんです、私…。そこからの付き合いです。
《積極的なチャリティー活動で生まれた復興歌…》
東日本大震災では何カ所も何度も被災地に足を運びましたが、石巻で感じたことがありました。私たちがただ歌を届けるんじゃなく、皆さん、「自分たちの歌がほしい」っておっしゃって。それじゃフットワークがいい人でなきゃって、くるりのシゲ(岸田繁さん)に電話した。
「今、被災地にいるけど、仕事じゃない、お金にはならないけど、歌を作って」って言ったらすぐにOKしてくれ、できたのが「石巻復興節」です。
彼も何度も被災地に足を運んでくれた。石巻の皆さんに、思うことを一行ずつでもいいから紙に書いてもらった。いい言葉、頑張ってるね、そんな言葉をつなげて詞にし、曲をつけてプレゼントしたんです。最初のCrossに収めました。
《「CrossⅡ」は椎名林檎さん、TAKUROさん(GLAY)ら、「同Ⅲ」はレキシ(池田貴史さんソロユニット)、細野晴臣さんら、昨年5月発売で最新の「同Ⅳ」は加藤登紀子さん、布袋寅泰さんらと共演。〝ポップでロックなさゆり〟が誕生した》
池ちゃん(レキシ)とは、上原ひろみちゃん(ジャズピアニスト)のライブに矢野顕子ちゃんと娘(佐保里さん)と行ったときでした。楽屋に行ったら、娘が「いま一番、テンションが上がってる、レキシの池ちゃんがいる」って。レキシ? 池ちゃん? 誰それ? そこで顕子ちゃんに紹介してもらった。そのとき「初めまして」でしたが、とても優しい方で、ライブに行ったら音楽的にもすごくすてきで。食事をしたりして、いい友達になったのよ。東京スカパラダイスオーケストラも「二十世紀の名曲たち」や「Cross」でご一緒した。彼らのライブに飛び入りでステージに上がったりね。50年近くやってきたことで、「また石川が、何かやってる。面白いかな」って賛同者が現れて、それが一人ずつ増えているということかな。ありがたいです。(聞き手 清水満)