トヨタ自動車の次期社長に内定した執行役員の佐藤恒治氏(53)が、豊田章男社長から重責の打診を受けたのは、昨年12月にタイで開催されたレースのサーキット場だった。「ちょっとお願いがあるんだけど、社長をやってくれない」と言われ、「本当に冗談だと思った」。エンジンの爆音で周囲の他の人間には聞こえない。相手を緊張させない豊田氏の心遣いと、情報管理術だった。
根っからのエンジニアで「笑顔になる車を造るのが大好き」が口癖。カローラの部品開発に携わり、トヨタの高級車ブランド「レクサス」部門のトップなどを歴任。水素を燃やして走るエンジン車の開発も担う。豊田氏とともに開発車に乗る機会も多かったという。
「車を造り続ける社長でありたい。トヨタのあり方を車という形で示したい」と熱く語るが道は険しい。「とにかくまず実践する、行動するという実行力を前面に意識しながら、取り組んでいけるチームを作っていきたい」。53歳は表情を引き締めた。(黄金崎元)