高病原性鳥インフルエンザが全国で猛威を振るっている。農林水産省によると、今シーズンは過去最速の昨年10月28日に国内1例目が報告されて以来、1月23日現在、1道24県の養鶏場で64事例が確認され、殺処分の対象になった鶏などは、すでに約1179万羽に上る。これは過去最高を上回るペースだ。この影響で鶏肉や卵の価格が高騰しているが、事の重大さのわりには報道が少ないように思う。
輪をかけて報じられていないのは、殺処分のために自衛隊が災害派遣されていることだ。昨年12月中旬に青森県三沢市の養鶏場の鶏約140万羽中、約70万羽を、今年1月上旬には新潟県村上市で約130万羽中、約43万羽を自衛隊が処分しているのをはじめ、統合幕僚監部のHPで確認できるだけでも今季20カ所近い養鶏場に約3500人の自衛官が派遣されている。
国家、国民が危機にひんしているときに自衛隊が支援すること自体は否定しない。が、地震、台風、豪雨、大雪、山林火災、豚熱、そして鳥インフルなどの対応に加えて急患輸送など、多岐にわたる災害派遣が繰り返され、その数は年間で380件を超える(令和3年度)。
自衛隊の最重要任務は国防だ。まもなく1年を迎えるロシアのウクライナ侵攻で、ある日突然平和は破られ、殺戮(さつりく)が始まることを私たちは目の当たりにした。本来自衛隊は、そのようなときに備えて、日々必要な訓練を行わなければならない。頻発する災害派遣によって訓練時間が削られるうえ、隊員1人が1日動員されるコストを試算すると、平均日給約2万円に災害派遣手当、携行食、必要な装備品、輸送費などの実費が加わる。訓練機会の損失も加味すれば、コストはさらに増大する。こうした現実にも真摯(しんし)に目を向ける必要があるのではないか。
災害派遣の3要件は、公共性・緊急性・非代替性。その派遣は、本当に常備自衛官でなければならないのか。例えば、鳥インフル対応などは予備自衛官で代替できないか。そのような場が与えられれば、熱意をもって任に就く予備自衛官たちを直接知る身としても前向きな活用の検討を望む。
葛城奈海
かつらぎ・なみ 防人と歩む会会長、皇統を守る国民連合の会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)。