森ビル創業の地「虎ノ門ヒルズ」今秋完成 21年越しの想い結実へ 

森ビルの都市開発本部、加藤昌樹課長=18日、東京都港区(本江希望撮影)
森ビルの都市開発本部、加藤昌樹課長=18日、東京都港区(本江希望撮影)

森ビルが手掛ける複合都市「虎ノ門ヒルズ」(東京都港区)の再開発エリアに、新駅に直結した超高層ビル「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が今秋開業する。森ビルが虎ノ門の再開発事業者に選定されたのは2002年。21年の時を経て、ステーションタワーの開業で完成の形となる。虎ノ門は森ビルの創業の地だけに、同社がこの再開発にかける想いは強い。計画などに携わった森ビル都市開発本部、加藤昌樹課長に話を聞いた。

父が設計士で、子供のころから建築の現場が身近だった加藤さんは、大学で土木工学科を専攻し、卒業後にUR都市機構(独立行政法人都市再生機構)に就職した。最初に担当したのはJR川崎駅西口再開発の歩行者デッキ。設計から行政との協議、現場の管理なども担当し、「右も左も分からず困難も多かったが、先輩らに教えてもらいながら現場で積み重ねた経験が自分の土台になっている」と振り返る。08年に森ビルに転職後は14年完成の虎ノ門ヒルズの森タワー、20年に完成したビジネスタワーを手掛け、今秋開業するステーションタワーを担当している。

交通インフラと一体で都市再生

虎ノ門ヒルズの再開発をめぐっては、東京都が計画の初期段階から民間事業者が参画できる「事業協力者方式」を導入し、森ビルを選定。官民連携で虎の門エリアを国際的なビジネス交流拠点にすることを目指して、虎ノ門ヒルズの再開発を進めた。加藤さんは、「再開発には、地権者をはじめ、建設会社、道路管理者、自治体、国など関係者は多岐にわたり、それぞれと信頼関係を築くのは一朝一夕ではいかない」と話す。

例えば、街の再開発と交通インフラ整備に伴う工事を同時に行うには協力関係の構築が不可欠だ。20年6月に開業した日比谷線としては56年ぶりの新駅である虎ノ門ヒルズ駅。列車を運行しながら地下鉄の掘削を続け、仮の出入り口や掘削工事による残土の排出口を建設中の虎ノ門ヒルズの敷地内に新たに設けるなど、スケジュール通りに進めるには、様々な工夫が必要だった。「建築と土木、鉄道はそれぞれ法律や制度、用語や文化が違う。その上で互いを理解し、協力し合わないと前に進むことができない」と加藤さんは振り返る。

虎ノ門ヒルズの大きな特徴は、環状2号線の整備と連携した再開発である点だ。環状2号線は、江東区の有明から港区の新橋、虎ノ門を経て千代田区の神田佐久間町を終点とする延長14キロメートルの都市計画道路で、新橋から虎ノ門の区間は俗称で「マッカーサー道路」と呼ばれる。ダグラス・マッカーサーが最高司令官を務める連合国総司令部(GHQ)が虎ノ門の米国大使館と東京湾の竹芝桟橋を結ぶ軍用道路の整備を求めたという噂が広まったことが由来とされるが、GHQによる、この道路計画の史実はない。

虎ノ門ヒルズの下を通る環状2号線の「築地虎ノ門トンネル」=18日、東京都港区(本江希望撮影)
虎ノ門ヒルズの下を通る環状2号線の「築地虎ノ門トンネル」=18日、東京都港区(本江希望撮影)

地価が高いため用地買収は進まず、未整備のままだったが、1989年に道路の上下空間での建築が可能になり、道路と建築物との一体整備ができるようになった。この「立体道路制度」が創設されたことで、計画が動き出した。


森ビルの都市開発本部、加藤昌樹課長。背後は建設中のステーションタワー=18日、東京都港区(本江希望撮影)
森ビルの都市開発本部、加藤昌樹課長。背後は建設中のステーションタワー=18日、東京都港区(本江希望撮影)


その結果、虎ノ門ヒルズの地下に環状2号線の「築地虎ノ門トンネル」が通ることになり、地権者はタワーに入居し、地域での生活や事業を継続することが可能となった。ステーションタワーの場合、権利者との調整は2016年2月の再開発準備組合の設立から約3年に及び、「地権者と一緒に、街をよくするためにどうしていくか、模型を見てもらいながら話し合った」(加藤さん)という。

現在は地権者27人のうち25人が参画し、ヒルズのタワー内に事務所や住居を構えている

歩きやすい街にこだわり

〝最終章〟となるステーションタワーは、虎ノ門ヒルズ駅に直結し、駅広場「ステーションアトリウム」は3層吹き抜けの自然光が入る空間で、さらにホームとの間はガラススクリーンが採用された。加藤さんは「閉塞的を感じず、開放的で明るい空間を目指した。ガラスから駅前広場が見えるので、地上に出るのも直感的にわかりやすい」とアピールする。

虎ノ門ヒルズ駅の駅広場「ステーションアトリウム」(森ビル提供)(C)DBOX for Mori Building Co., Ltd.
虎ノ門ヒルズ駅の駅広場「ステーションアトリウム」(森ビル提供)(C)DBOX for Mori Building Co., Ltd.

さらに各タワーを歩行者デッキや地下道でつなぎ、桜田通り上には幅20メートルの大きな歩行者デッキを整備。地下鉄駅からバリアフリーで近隣の虎の門病院などに移動することができる。徒歩で移動できるコンパクトシティーとして、歩きやすい街づくりにこだわった。「移動手段の選択肢を増やすことが大事で、車いすでも安心して移動でき、年を重ねても訪れたいと思う街づくりを心がけました」(加藤さん)。

大胆なインフラ交通整備とともに再生した新時代の都市。そのインパクトに注目したい。(本江希望)

桜田通りの上の歩行者デッキ(森ビル提供)
桜田通りの上の歩行者デッキ(森ビル提供)

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