【シンガポール=森浩】中国の人口が減少に転じたことで、インドが世界で最多の人口を抱える国となったもようだ。モディ政権が国際社会でインドの存在感を高めようとする中、国内では「世界一」を歓迎する声が上がる一方、若年層の雇用対策など課題が山積している。医療インフラの整備も不十分な中、人口増には不安も漂う。
中国が今月17日に発表した昨年末の同国の総人口は14億1175万人で、61年ぶりの減少となった。インドの国勢調査は2011年以来実施されていないが、国連によると、昨年の推計人口は14億1200万人であることから、既にインドが世界一になっている可能性がある。
インドも長期的傾向として出生率は低下しているが、人口は50~60年代まで増加するもようだ。印シンクタンク、人口調査センターは産経新聞の取材に「伝統的価値観として、大きな家族を持つこと、また子や孫が高齢者の世話をすることが重要と考えられている」と指摘している。
モディ政権は人口世界一に対して正式な反応を示していないが、米外交誌ディプロマット(電子版)は、インドが「経済的、地政学的な主要プレーヤーとしての地位を確立しつつある」中、存在感向上につながるとの見方を示した。
ただ、30歳以下が人口の約半数を占める中、国内では特に若年層の職不足が深刻化している。21年の15~24歳の失業率は約28%というデータもある。また、国内の貧困層は約2億2890万人とされ、路上生活者は300万人に上るとの推計もある。人口増は経済や医療を圧迫するとの懸念は強い。
インドではこれまで人口抑制が話題となったことはある。ただ、特に近年はヒンズー至上主義を掲げる与党インド人民党(BJP)の一部が、出生率が高いとされたイスラム教徒の増加を抑えたいとの思惑があった。地元紙ヒンドゥー(電子版)は「人口抑制をめぐってはこれまで宗教的な面に焦点が当たってきた」と指摘。人口世界一となることで議論の本格化を求めた。