スマホやPCなどの充電量が自然に減少する「自己放電」の原因 カナダの研究チームが解明

電解液の色の変化
電解液の色の変化

Innovative Tech:このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

スマートフォンやノートPC、電気自動車などで使用するバッテリー(リチウムイオン電池)は、長年使っていると充電の減りが早くなる。これは電池を使っていないときに電池内で放電と似た化学反応が起きてしまう自己放電という現象が原因だ。

カナダのダルハウジー大学に所属する研究者らは、そんなリチウムイオン電池が自己放電する理由を、偶然にもリチウムイオン電池の実験中に明らかにした。

前提の説明として、リチウムイオン電池には正極と負極があり、その間にセパレータがある。これらの部品は、いわゆるジェリーロール状に巻かれたものと積層されたものがある。いずれの場合も、ジェリーロールや電池の積み重ねを固定するためにテープが使用されている。

このリチウムイオン電池のテープは、電極やセパレータにくっつくように、ポリマー、つまりプラスチック箔に粘着剤をつけただけのものである。このテープのポリマーは、PET(ポリエチレンテレフタレート)が一般的だ。ペットボトルなど、身の回りの製品にもよく使われている。

本筋に戻る。研究チームはリチウムイオン電池を改良する研究の一環として、いくつかの電池を異なる温度にさらして調査実験を行った。実験は、リチウムイオン電池から抽出した電解液を40~70℃の範囲の温度で熱するというものである。その結果、著しい変色を示した。最も高い70℃のものは透明だったものが赤色に、55℃のものは薄茶色になった。

これは、高温状態にすると電解液が電池の負極と反応しているからである。どのリチウムイオン電池でも充電・放電の初期に起こる現象で、電極が完全に不活性ではないため、化学反応が起こる。これらの反応の中には、パッシベーション膜(保護膜)を形成し、それ以上の反応を抑制する良い反応もあるが、ラジカルと呼ばれる非常に攻撃的な反応生成物を形成し、他のセルの構成要素と反応するものも生まれる。

研究チームは、このラジカルがPETテープと反応して、電解液を赤くする分子を作ることを発見した。温度を上げると、この分子がたくさん作られ電解液が赤くなる。研究チームは、この分子をガスクロマトグラフィーによる高度な化学分析を行った。

結果、この新しい赤い分子は、いわゆる「レドックスシャトル」として働くことが分かった。レドックスシャトルは、電解液中で移動することが可能でマイナス電極からプラス電極へ何度も往復することができる。その際、マイナス電極から電子を受け取り、プラス電極に渡し、また戻ってくるというプロセスを繰り返す。この現象により、実際には電流を流していないにもかかわらず、電池が放電してしまう(自己放電)。

ではどうやったら自己放電を減少させられるのか。テープのPETはレドックスシャトルを作る元凶なので、リチウムイオン電池の化学反応でも分解されない、より安定したポリマーに置き換える必要がある。つまり、PETテープを他のポリマーと換えるだけで自己放電が減少する、もしかするとゼロになるかもしれないというわけだ。

ここまでの研究成果は、「Reversible Self-discharge of LFP/Graphite and NMC811/Graphite Cells Originating from Redox Shuttle Generation」と「Identification of Redox Shuttle Generated in LFP/Graphite and NMC811/Graphite Cells」という論文で発表している。

研究チームのマイケル・メッツガー氏に聞いたところ、現在、自己放電が減少する他のポリマーをスクリーニングし、その化学的安定性をテストしているという。またこれらのポリマーを使って電池セルをテストし、自己放電を測定してどうなるか実験もしている。今のところ、これらの結果は非常に有望で、近々、リチウムイオン電池用テープの改良ポリマーに関する新しい研究論文を発表する予定だという。

(ITmedia NEWS)

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