日本統治時代から人気を博した朝鮮の女優、文芸峰(ムン・イェボン)(1917~99年)が戦時体制下で軍部に協力する国策映画に相次いで出演したことは前回(11日付)書いた。『軍用列車』(昭和13年)『君と僕』(16年)『朝鮮海峡』(18年)などである。
当時の映画雑誌『東宝映画』に『軍用列車』の記事が出ていた。《朝鮮提携「軍用列車」が出来上がった。スパイをめぐって、勇壮正義の士、活躍する物語である。(略)可憐(かれん)というに相応(ふさわ)しい姿は、其(そ)の儘(まま)、今度「軍用列車」で妓生(キーセン)に扮(ふん)している。(略)朝鮮の美しい使者、文芸峰の上で栄光あれ!》(昭和13年4月15日号から)
文が演じたのは、朝鮮人の兄の学費を稼ぐために妓生に身を落とした役。その恋人が苦界から彼女を救い出すお金を得るため軍用列車の機密を中国側のスパイに渡す…というストーリー。日中戦争を戦う敵(中国)に対して、朝鮮人は日本に忠誠を誓い、ともに戦う、といったテーマに加えて、文が妓生の踊りを披露するのが、映画の見どころのひとつになっている。