鑑賞眼

楽曲の合間の「感情」丁寧に ミュージカル「キングアーサー」

魔術師マーリン(石川禅、左)の導きで王となったアーサー(浦井健治)=田中亜紀撮影(ホリプロ提供)
魔術師マーリン(石川禅、左)の導きで王となったアーサー(浦井健治)=田中亜紀撮影(ホリプロ提供)

フランス発のロックミュージカルが、韓国の演出家と日本のスタッフ、出演者によって進化した。

古代ケルトに伝わる「アーサー王伝説」を基にしたストーリーはシンプルだ。サクソン族侵攻の危機にある英国で、新王を選ぶ決闘が行われる。しかし、伝説の剣、エクスカリバーを抜くことができたのは、決闘に勝利した最強の騎士、メレアガン(伊礼彼方、加藤和樹のWキャスト)ではなく、前王の落胤(らくいん)で、騎士でもないアーサー(浦井健治)だった。

アーサーに復讐を誓う最強の騎士、メレアガン(伊礼彼方)=田中亜紀撮影(ホリプロ提供)
アーサーに復讐を誓う最強の騎士、メレアガン(伊礼彼方)=田中亜紀撮影(ホリプロ提供)

メレアガンは新王となったアーサーに復讐(ふくしゅう)を誓い、アーサーを恨む異父姉、モルガン(安蘭けい)と手を組む。アーサーの妻、グィネヴィア(小南満佑子、宮澤佐江のWキャスト)、円卓の騎士、ランスロット(太田基裕、平間壮一のWキャスト)らを巻き込み、アーサーは苛烈な運命に飲み込まれていく。

全体を貫く命題は「運命とどう対峙(たいじ)するか」。韓国気鋭の若手演出家、オ・ルピナはここに、「運命を決めるのは天だが、選択するのは人間」という普遍的なテーマを据えた。登場人物の選択を最後まで追いかけ、韓国ミュージカルが得意とする「情念」の表現と、日本の観客が好む「情感」を加えたことで、物語の解像度は格段に増した。「運命に立ち向かえるのは愛であり、愛とは許すこと」というひとつの答えを提示したアーサーが象徴的だ。フランスの作曲家、ドーヴ・アチアによる個性あふれる楽曲や派手な群舞に目が行きがちだが、作り手と演じ手が楽曲の合間の「感情」を丁寧に埋めた。

アーサーに復讐を誓う最強の騎士、メレアガン(加藤和樹、中央)=田中亜紀撮影(ホリプロ提供)
アーサーに復讐を誓う最強の騎士、メレアガン(加藤和樹、中央)=田中亜紀撮影(ホリプロ提供)

これまで多くの作品で王子を演じてきた〝王子様役者〟である浦井は、持ち味の明るさを生かし、新たな魅力を開花させた。運命に翻弄され苦悩する受け身の姿勢と、自身の道を選択していく強さのバランスがいい。

対照的に描かれるメレアガンはWキャストで、絶望の色が濃い加藤と、復讐のパワーが強い伊礼の差異がおもしろい。高音と低音を行き来しシャウトも挟むロック調のナンバー「奪われた光」、ハイトーンが印象的な「復讐の約束」(モルガンとの歌唱)など難曲ぞろい。開幕直後に観劇したためか、慎重さが先に立っている印象だったが、回を重ねるごとにグルーブ感を増していくだろう。

モルガン(安蘭けい、中央前)もまたアーサーに復讐を計画する=田中亜紀撮影(ホリプロ提供)
モルガン(安蘭けい、中央前)もまたアーサーに復讐を計画する=田中亜紀撮影(ホリプロ提供)

モルガンの安蘭は、作品を代表する楽曲「報いを受けなさい」、「誓いなさい」(メレアガンとの歌唱)で圧巻のステージング。せりふはないが身体表現が雄弁なレイア(碓井菜央)、伝説の世界にいざなう鹿(工藤広夢)と狼(長澤風海)の動きを始め、KAORIaliveのバラエティー豊かな振り付けが光る。これほどアンサンブルに目が行くステージはなかなかないだろう。マーリン(石川禅)とケイ(東山光明)の安定感も心強い。欲をいえば、ヒロインを始め若手の歌唱に、さらに力強さが欲しい。

2月5日まで、東京・初台の新国立劇場中劇場。群馬、兵庫、愛知公演あり。問い合わせはホリプロチケットセンター(03・3490・4949)。(道丸摩耶)

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