(月刊「丸」・昭和49年12月号収載)
昭和十六年十二月八日。雲量は四、視界良好で、うねりと波がややある程度、戦うにはまず最高の日和であった。やがて、前日に発見したアメリカ貨物船のマストが、肉眼でも水平線にみえてきた。午前二時半、総員配置につき、ただちに潜航を開始する。艦長より戦闘開始の力強い訓示が司令塔より伝声管によって伝達され、艦内の意気はいやがうえにもあがった。
本艦も水中速力をあげて、目標との距離をつめていく。しばらくするうちに、聴音室にも貨物船のピストン音がかすかにはいってきた。潜望鏡にも、マストや煙突がだんだんと大きくなってゆくのであろうか、艦長は航海長や砲術長に、観測の状況を説明し、必要なことは発令所の先任将校(水雷長)にも伝える。
船腹にアメリカ国旗
私は配置上、第一潜望鏡のすぐそばにいるので、艦長の動作も、艦内外の状況も、それこそ手にとるようにわかる。
「先任伍長、のぞいて見ろ!」