話の肖像画

歌手・石川さゆり〈22〉 離婚乗り越え 「風の盆恋歌」は自分応援歌

石川さゆりさん=2022年12月15日、東京都港区(春名中撮影)
石川さゆりさん=2022年12月15日、東京都港区(春名中撮影)

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《「天城越え」で名実ともにトップ歌手になったが、私生活では30代前半に離婚、初めて経験した苦難、迷う日々…。そんな時に巡りあったのが「風の盆恋歌」(詞・なかにし礼、曲・三木たかし。平成元年6月18日発売、51枚目のシングル)》


娘(佐保里さん)と2人で暮らし始めた頃でした。最初(なかにし)礼さんは、全然違う詞を書いてこられたんです。私は昔から作家の先生方とはいろいろとお話をしながら歌を作ってきたので、「今、ちょっとこの詞を歌う気分にはなれません」と言ったんです。先生もすぐに「あっ、そうだね」って。だから「もう一つ書いてください」とお願いしたんです。そしてできたのが、「風の盆恋歌」なんですね。

曲は三木先生がものすごい勢いで書き上げてくださった。日本作詩大賞の締め切りがぎりぎりだったみたいで、2週間くらいでレコードになった。普通皆さんの手元に届くまで、1カ月とか1カ月半はかかるのに、3週間もたたないで店頭に並んだ。「(この制作のため)どんだけ工場を止めてやったのか」って、知らないけど…(笑)。


《小説「風の盆恋歌」(高橋治著)のモチーフ。富山市八尾町で毎年9月に行われる「おわら風の盆」の祭りが舞台。年に一度、わずか3日間の祭りの間だけの禁断の逢瀬(おうせ)…。礼さんの詞に女性の情念、わびしさと悲恋を感じさせる》


礼さんから「いい小説だから…」と本を渡されていたので、詞の世界は読んでいました。9月の「風の盆」の祭りも、「一緒に行こう」と礼さんが連れて行ってくださった。富山まで行って祭りの雰囲気を味わって、ゆっくりと見ていたので、イメージとしては持てていたんです。

でも曲がねぇ。「はぁ~、とんでもない歌がきたな」って。すごくいい曲なんですが、ひとつ間違えると、〝ご詠歌〟(寺院や霊場に巡礼する信者などが鈴を振ったり、鉦(かね)を鳴らしたりしながら哀調を帯びた節回しの歌)みたいなんですよ、隙間だらけで…。デモテープの三木さんの声も、(スローテンポで低い声で)♪ターララ、タララーラって、隙間だらけでしかも暗い(笑)。これを埋めるには自分の緊張感、集中力を含め、何かとっても難しいなと思いました。

私の曲の組み立て方は、最初に詞を読んで、それから曲を聞いて重ねていくんですね。この曲も何度もそれを繰り返し、隙間を埋めていったんです。


《「風の盆恋歌」は同年の日本作詩大賞、日本レコード大賞最優秀歌唱賞など多くの賞に輝いた。NHK紅白歌合戦で念願の〝大トリ〟。難しさを感じさせない歌唱力で、石川さんを〝新たな世界〟へと誘った》


〝いろいろ〟あったころなので印象深い曲ですね。(〝かなわぬ恋に燃える〟という)礼先生の歌詞の意味とは全然違いますが、歌の3番に「命をかけてくつがえす」というフレーズが出てくるんです。皆さんのイメージしている歌の世界と違って、私は自分に対して「これから生きていくことを、しっかりと過ごしていかなきゃいけない」という思いで歌っていたんです。それで初めて〝大トリ〟をやらせていただき、皆さんに聞いていただくということと、自分に向かって、何か歌っていたような気がしますね。


《ファンの熱い支持…》


いい歌です。男の方に好きな人が多いですね。ステージで歌うと聞きながら泣いてらっしゃる方も結構いらして、「いったいどんなつらい恋をしてきたんだろう」って、フフフ…。でも人は生きていれば、言えないようなこと、恥ずかしいことも、ときめいたこともいっぱいあるんです。そんなの人に言うことも、知られることも必要ないかもしれない。言いたい人は言えばいいですけど…。でも歌を聞いた瞬間、「そうなんだよね」とどこか解放されちゃって涙が出たりする。歌って、そういうもんじゃないかしら…。(聞き手 清水満)

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