第一章 北堀江にて 三 (文・永井紗耶子)
しかし母は、文吾(ぶんご)が木端(ぼくたん)の元へ通うことを、あまり喜ばなかった。
「子どもが出入りするのには早いのでは」
素読をし、算盤(そろばん)を覚え、剣道に通うというのならまだしも、粋人たちの集うところに出入りしていて良いものかと、不安に思うのも無理はない。しかし父は違った。
「ええか。うちは名門でもない。なんぼ陣屋で努めたかて、そこまで出世は望めへん。せやったら、文人墨客(ぼっかく)として世に出たらええ。この子にはその才がある」
第一章 北堀江にて 三 (文・永井紗耶子)
しかし母は、文吾(ぶんご)が木端(ぼくたん)の元へ通うことを、あまり喜ばなかった。
「子どもが出入りするのには早いのでは」
素読をし、算盤(そろばん)を覚え、剣道に通うというのならまだしも、粋人たちの集うところに出入りしていて良いものかと、不安に思うのも無理はない。しかし父は違った。
「ええか。うちは名門でもない。なんぼ陣屋で努めたかて、そこまで出世は望めへん。せやったら、文人墨客(ぼっかく)として世に出たらええ。この子にはその才がある」