鑑賞眼

3年ぶりの新春浅草歌舞伎 若手が義太夫狂言で渾身の舞台

「双蝶々曲輪日記 引窓」より。追われる身の濡髪長五郎(中村 橋之助、左)は、南与兵衛(中村隼人)ら家族に助けられる ©松竹
「双蝶々曲輪日記 引窓」より。追われる身の濡髪長五郎(中村 橋之助、左)は、南与兵衛(中村隼人)ら家族に助けられる ©松竹

若手歌舞伎俳優が軸となる、3年ぶりの「新春浅草歌舞伎」がいい。東京・浅草公会堂の新年恒例の公演だったが、コロナ禍で中止が続いていた。活躍の場が限られた20~30代の花形役者が、粗削りながらもあらん限りのエネルギーをぶつけ合い、熱い舞台を見せる。

昼夜とも、注目は義太夫狂言。第1部「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 引窓」では、図らずも人をあやめ、追われる身の濡髪長五郎(中村橋之助)が立派。人目をしのび、母お幸(上村吉弥)に会おうとするが、血のつながらない弟、南与兵衛(中村隼人)と、その女房お早(坂東新悟)という血縁を超えた家族が、互いを思いやる様が、しみじみと胸に迫る。

隼人は線が太くなり、片岡仁左衛門の教えを誠実に守る姿勢も好ましい。町人であり、役人でもある立場の葛藤もにじませた。その夫と姑の苦衷を察するお早役の新悟も、家族の言葉に細やかに反応する繊細な芝居。もともと声がよく、たおやかな雰囲気の女形だが、廓出身の粋な空気がのぞいた。

後半、息子の髪をそって逃そうとする、お幸と濡髪のやり取りには、泣かされた。2人の息子の間で千々に乱れる親心を、吉弥がじっくり見せ、橋之助が涙をこぼしての熱演で応えた。続く「男女(めおと)道成寺」は、坂東巳之助と新悟がそれぞれ立役(男役)と女形の白拍子で、華やかな連れ舞。

「男女道成寺」に主演する(左より)坂東新悟、坂東巳之助 ©松竹
「男女道成寺」に主演する(左より)坂東新悟、坂東巳之助 ©松竹

第2部の「傾城反魂香(けいせいはんごんこう) 土佐将監閑居(とさのしょうげんかんきょ)の場」は、亡き二世中村吉右衛門の芸を継承しようという決意が伝わる舞台だ。吉右衛門の教えで勉強会(双蝶会)を続けてきた中村歌昇(かしょう)、種之助の兄弟が、浮世又平とその女房おとく役で主演。平成29(2017)年の「双蝶会」で挑戦した演目に、再び取り組んだ。

「傾城反魂香」より。浮世又平(中村歌昇、左)の絵が奇跡を起こし、女房おとく(中村種之助)と喜ぶ ©松竹
「傾城反魂香」より。浮世又平(中村歌昇、左)の絵が奇跡を起こし、女房おとく(中村種之助)と喜ぶ ©松竹

義太夫狂言を大切にしていた吉右衛門の舞台で、常に共にあった人間国宝、竹本葵太夫が語り、若手に胸を貸す。吃音の又平は、吉右衛門の当たり役だった。思うように話せない又平が、出世を望み、喉をかきむしって必死に訴える様が、又平役に全身でぶつかる歌昇に重なる。種之助も、何とか夫をもり立てようとする女房を、けなげに演じる。さらに又平の師匠役で中村吉之丞が入って播磨屋(吉右衛門の屋号)ゆかりの顔ぶれが揃い、上々の成果。

「連獅子」より。親獅子の精(尾上松也、右)と仔獅子の精(中村莟玉)が力強い毛振りを見せた ©松竹
「連獅子」より。親獅子の精(尾上松也、右)と仔獅子の精(中村莟玉)が力強い毛振りを見せた ©松竹

最後は「連獅子」。尾上松也と中村莟玉(かんぎょく)がそれぞれ親獅子の精、仔獅子の精に扮する。動きに不安定さも残るが、勢いと生命力あふれる毛振りを見せた。

昨年、内装が新しくなった浅草公会堂に、活気が宿った事も嬉しい。かつて新春浅草歌舞伎に主演した市川猿之助や中村勘九郎、七之助兄弟は今月、歌舞伎座の芯に立つ。浅草で真面目に古典に取り組む若手がいる限り、「歌舞伎は大丈夫」と思わせた。1月24日まで。(飯塚友子)


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