「全く想定しない結果になった。恣意(しい)的な捜査立件で、議会制民主主義が崩壊してしまう」。令和3年10月の衆院選を巡り、奈良地裁で今月18日、公職選挙法違反の罪で罰金30万円の有罪判決を受けた日本維新の会衆院議員の前川清成被告(60)は、記者会見で憤りを見せた。
判決などによると、前川被告は衆院選公示前に、「選挙区は『前川きよしげ』、比例区は『維新』とお書きください」と記載した選挙はがきが入った封書を母校・関西大の卒業生らに発送した。宛名書きへの協力を依頼する文書も入っていた。
裁判で争われたのは、前川被告のこうした行為の違法性だ。公選法では公示前の選挙運動は「事前運動」として禁じられているが、文書の送付先が支援者であれば「立候補の準備行為」で合法となる。前川被告は、文書送付の目的は「送付先に選挙はがきの宛名書きを依頼したにすぎない」とした上で、母校の卒業生の名簿を基にした送付先について「支援が期待できる人たち」と主張。一貫して無罪を訴えてきた。
だが、奈良地裁は送付した文書に投票を呼びかける文言が入っていることから「実質的には、投票を呼びかけるのと同様の効果を目的としている」と指摘。送付先について「被告と接点がない者が多く、支援を期待できるとはいえない」として、事前運動に当たると判断した。
判決は選挙運動のあり方に大きく影響するとみられ、政治関係者らの関心を集めた。ある元衆院議員が「大半の議員はやっていることだ」と前川被告に同情的な見解を示す一方、ある地方議員は「前川被告がやったことはかなり危険な行為。選挙管理委員会に違法かどうか確認しなかったのか」といぶかしむ。
今春には統一地方選が控え、各地で激戦が予想される。せっかく当選しても、公選法違反罪で検挙されて罰金刑以上が確定すれば、公民権が停止し失職してしまう。事前運動と準備行為の線引きは曖昧だが、だからといって何をしてもいいわけではない。グレーな行為は慎重に対応すべきだ。一票の重みを感じるならば、政治家は今一度立ち止まって、法の趣旨である公正な選挙とは何か考える必要がある。
【プロフィル】江森梓
平成20年入社。京都総局、大津支局などを経て、大阪社会部では大阪府庁や遊軍などを担当した。昨年10月から奈良支局。