こんな馬がいるんだなあ。デビュー戦のあと、そのパトロールフィルムを見ていて、つくづくそう思った。昨年の11月13日、東京の芝良1800メートルで行われた2歳新馬戦を勝ったときのソールオリエンスである。鹿毛の牡馬。
調教での動きがよく、それで9頭立ての1番人気。単勝オッズ1.4倍という断然の支持を集めていたのだが、スタートで内にいた馬がよれてきて、体当たりをくってしまった。それも、二度も。
普通ならここでカーッときて、騎手の制止をきかずに暴走してもおかしくないのだが、ソールオリエンスは何事もなかったかのように、4番手につけた。
ただし-。
このレースには3頭の牝馬が出ていて、それらが1、2、3番手を走っていたのだが、ソールオリエンスは顔をその3頭にずっと向けたまま、真ん前を見ずに走っていたのだ。
ああ、かわいこチャンがいるなと、そこに気をとられているかのよう。
よく、試験の真っ最中なのに、勉強しないで、家でアイドル番組ばかり見ている息子を、母親がこう嘆くでしょ。「聞いてくださいよ、うちの子ときたら、のんき坊主で困ったもんです。集中力というものがないんです」
あののんき坊主なんだよなあ。ソールオリエンスは。
呑気坊主(のんきぼうず)=のんきな人をからかって、または親しんでいう語〈広辞苑〉
それでもゴール前の200メートルだけは、まっすぐ前を向いて走り、クビ差で新馬戦を制したのだから、能力は相当なもの。
そのあとソールオリエンスは2カ月余り休んで、先週1月15日、重賞・京成杯に出てきた。きっと、休養明けでボーッとしているはずと軽視したら、なんと、好位から抜け出して後続を2馬身半も突き放してしまった。のんき坊主、一気の覚醒である。
父がキタサンブラックであるところは昨年の年度代表馬イクイノックスと同じ。母の父がモティヴェイター(英ダービー馬)であるところはタイトルホルダーと同じ。まさに前途洋々かも。(競馬コラムニスト)