(月刊「丸」・昭和33年9月号収載)
Z旗掲揚
昭和十六年十二月七日午前六時、連合艦隊旗艦の「長門」より「皇国の興廃繋りてこの征戦にあり、粉骨砕身各員その任を完うせよ」の激励電報が、艦内拡声機で伝えられた。ついで午前七時、「赤城」の檣頭(しょうとう=帆柱の先)高くZ旗がスルスルと掲揚された。
私は指揮所で、艦橋から「Z旗!」という通知を受けた瞬間、「ウウーン」とうなって武者ぶるいした。
そして「無敵海軍」と赤く染め出した手拭の鉢巻をグッとしめ、「どうか機械に故障が起きてくれるな。もし故障が起きて真っ先に突っ込んでいる旗艦『赤城』の速力が鈍るようなことがあれば、腹を切っても何の申し訳にもならない。機械の整備、部下の練度ともに十分に自信がある。もうこの上は神だのみ、弓矢八幡守りたまえ」と念じた。この気持は当時の日本人なら、きっとわかってくれるだろう。
信号旗降下とともに、第四戦速二四ノットに増速して、目指す真珠湾軍港に向かって南下、驀進をはじめた。