今年は世界のアニメ業界をリードしてきた米ウォルト・ディズニーにとって創業100年の節目だ。近年、同社は往年の名作のリブート(再起動)にも取り組んでおり、今年は「リトル・マーメイド」、来年には「白雪姫」と人気作が相次ぎ実写化される。これらの作品の〝実写版プリンセス〟が注目されている。
「リトル・マーメイド」のヒロインは、赤色の髪に白い肌の人魚アリエル。実写版は今年初夏に公開予定だ。このアリエル役を黒人女優のハリー・ベイリーさんが務めると発表された2019年、「黒人のアリエル」をめぐり各地で議論になった。「私の好きだったアリエルではない」などの声が多く上がったのだ。
慣れ親しんだキャラクターの改変に違和感を覚える気持ちは分かる。ただ、それだけで新たな〝出会い〟を放棄するのはもったいない。昨年、実写版の映像を見る機会があったが、ハリーさん演じるアリエルの歌声の素晴らしさに驚かされた。制作トップの一人、ショーン・ベイリー氏は「(歌声を聴いたとき)彼女こそアリエルを演じるべき人だと感じた」と振り返る。
近年のディズニー作品からは、人種や文化などを極力フラットに扱う―という強い意志を感じる。来年には「白雪姫」の実写版も米国で公開予定だが、白雪姫を演じるレイチェル・ゼグラーさんのルーツはラテン系だ。1937年公開の同作はディズニーの看板作であり、言外に込められたメッセージを感じる。
最近のディズニー作品には物申したい気持ちもある。多様性を盛り込むものの、それが何度も見返したくなるような魅力的な作品、キャラクターとして反映しきれていないと感じるからだ。ただ、それと同時に、自分たちが表現の可能性を切り開く―という意気も感じる。これらの試みが、世界でどう受け止められるのか。重要な転換点になるのではと期待している。
一方、日本アニメ界からも転換点と位置づけられそうな作品が登場した。往年のバスケットボール漫画を映画化した公開中の「THE(ザ) FIRST(ファースト) SLAM(スラム) DUNK(ダンク)」だ。3D(3次元)CGを活用した独特のカメラワークと臨場感は本物の試合を見ているよう。新時代のアニメ表現であり、見逃すには惜しい。
【プロフィル】本間英士
平成20年入社。前橋、大津支局などを経て文化部。放送・漫画担当。書評「漫画漫遊」、アニメなどを扱う「ポップカルチャー最前線」を執筆。