団塊ジュニアが中心の保護者世代と比べ、近年の受験事情は大きく変わっている。新しい学問領域に応じてさまざまな新学部も登場。導入から3年目となる大学入学共通テストや多様な入試方式など、見守る側も情報のアップデートが求められている。「自分のときはこうだった」という経験則だけでは、対応できないことも多いといい、戸惑う保護者も少なくない。
制度が複雑すぎて親も困惑
「自分の受験のときとは大違い。制度を理解するだけでも大変です」と受験生を持つ団塊ジュニア世代の母親は語る。
総合型選抜・学校推薦型(旧AO・推薦)入試が拡大しているほか、大学入学共通テストの導入など、受験制度は大きく変貌。入試日程も複雑化している。同じ学部を何度も受験することができたり、少ない科目で受験できる試験もある。
共通テストを利用した入試もあり、「自分の子供に有利な方法を一緒に考えてあげたいが、複雑すぎて分からないことも多い。受験は情報戦なんだとも思う」と話していた。
この母親は、学校や塾が主催する進路説明会に足しげく通い情報収集。インターネットの交流サイトをウオッチしながら、受験知識をためた、と話していた。
とりわけ受験生に、大きな変化となっているのは、今年3年目を迎える大学入学共通テスト。昭和54年から始まった大学共通第1次学力試験、平成2年に導入された大学入試センター試験が前身で、共通テストへと変わってからは、より思考力や判断力が試される内容となった。
「ようはセンター試験なんですよね」という保護者もいるというが、ある予備校関係者は「国公立大の第一関門という意味ではそうですが、出題傾向が全く違うので、同じような試験とは言いにくいかもしれません。試しに数学の過去問をみてみたらよいと思います。出題文だけでもものすごく長いですよ」と話す。
昨年はとりわけ、数Ⅰ・Aは前回から20点近く平均点を落とし〝数学ショック〟ともいわれた。通信教育大手、Z会高校指導課の花岡正司課長は「数学の専門家でも一歩間違えると制限時間内に終えるのは難しいと話題になった」と振り返る。
前身のセンター試験が高校の学習内容の確認に重点が置かれたのに対し、大学での学習に求められる能力をはかる性格が強いのが共通テストだという。
「思考力を重視する問題は難易度の調整が難しい。今年のテストも油断せずに前回並みと思った方がいい」という。
志望大学めぐり親子ギャップ
いまの高校3年生は、高校入学時から新型コロナウイルスの影響を受けたコロナ直撃世代とあって、受験環境もイレギュラーだった。例えば、大学を開放するオープンキャンパスのような行事も十分ではなく、志望校を選びも今まで以上に手探りな受験生が多かったという。
保護者のなかには「受験を早く終わらせたいという考えだけで、進路選択をしていないか心配だった」ともあったという。
一方、保護者世代にあたる団塊ジュニア世代は「受験戦争」と呼ばれる厳しい受験を経験してきた世代。「よりレベルの高い大学に」という思いが強い人も少なくない。
ただ、大学の評価も数十年で大きく変貌。予備校などの偏差値ランクだけをとっても、団塊ジュニア世代のころとは大きく変わっている。
また、入試制度も複雑化しており、保護者が自分の入試のときの感覚で「『もっとレベルの高い大学の方に』と声をかけ、親子で言い合いになってしまった」という例もよくあるという。ある保護者は「本人の意思が大事という前提で、聞き役に徹するようにした」そうだ。
データサイエンス系学部続々 コロナで進路選択に変化も
保護者世代のときにはなかったような新しい学部も次々と登場している。
近年相次いで新設されている情報やデータサイエンス系の学部は平成29年にデータサイエンス学部を開設した滋賀大を始め、年々増えている。
背景にあるのはデジタル人材の不足だ。世界からの後れを取り戻そうと政府が「AI戦略」を策定。データサイエンス・AIを理解し、各専門分野で応用できる人材を育成しようとしている。
新型コロナウイルスの感染拡大も受験生の進路選択に影響を与えたようだ。コロナ禍で医療従事者の活躍に注目が集まったことで、医療系の人気が高まっているという。河合塾主席研究員の近藤治さんは「令和4年入試ではチャレンジ志向が高まり、例年なら薬学部などへ流れる層も医学部に挑戦する動きが見られた」と話す。
医学部医学科の人気は高止まりが続き、この秋、河合塾が実施した模試の受験生の志望動向などを調べたところ、5年入試でもその傾向がみられているという。
また、感染拡大が始まった当初は、一時、都心の大学を敬遠し、地元志向も強まっていたというが、昨年あたりからチャレンジ志向も復活。地方から東大や京大を目指す受験生も増えてきたという。
さらに、国公立大の理系学部系統別の状況をみると、医学部や獣医学部などの難関資格系学部のほか、志願者の増加が目立っているのが、近年低迷気味だった農学部。近藤さんは「SDGsへの関心の高まりから『食』分野への問題意識を持つ生徒が増えたこともブレークのきっかけかもしれません」と分析する。
理系学部のなかで比較的公務員採用が多いのも選ばれる理由に。また、食料危機が現実味を帯びたロシアによる小麦輸出大国・ウクライナへの侵攻も農学部の学びに関心を持つきっかけになっているようだ。
文系学部では、実学志向の高まりから就職や資格取得につながると法学部が、比較的人気。
一方、海外留学に制限がかかっていた国際系、外国語学部の人気は低調気味。ただ、ベネッセ教育情報センター長の谷本祐一郎さんによると「現高2生に実施した模試の志望動向では、復調の兆しが読み取れる」という。
最近の併願「ピラミッド型」
団塊ジュニアが受験した時期は受験校数が10校以上にのぼるという受験生も少なくなかったが、近年の受験校数は4校程度という人が多いという。
併願校数は受験生が居住する地域によって大きく変わるが、目標校1校と実力相応校2校、そして、すべりどめともいわれる合格確保校1校の4校程度を受験するというのが定番だった。
河合塾の近藤さんによると、目標校1校の下に実力相応校が並び、さらに合格確保校がぶら下がる構図から、ダイヤモンド型受験とも呼ばれるという。ただ、近年は、少子化などもあって大学に入りやすくなっていることもあり、合格確保校を受けない受験生も増加し、さながら「ピラミッド型」になりつつあるという。
併願校それぞれの対策をする必要もなく、受験校を減らすことで、1校1校に集中して対策できるようになる。受験にかかる費用も抑えられるなどメリットも多い。今年はこうした現象がさらに広がる見通しだ。
「保護者も一貫性が大事」
今後、子供の受験を控えた保護者世代にできることは何か。ベネッセの谷本さんは「子供にさまざまな体験を経験させることが親の役割になってくる」と話す。「無料で行われている地元のイベントとかボランティアでいいんです。大事なのは行きっぱなしにせず、感じたことや考えたことを子供自身の言葉でアウトプットさせること」という。
大学入試ではこれまで以上に思考力が問われる内容が増えている。高校で取り組んだ活動や課題研究を大学の総合型選抜で評価する動きも広がる。自分で考え、それをアウトプットできる能力がこれまで以上に必要になるのだろう。
一方、まさに今年、子の受験を迎えている保護者はどう対応すればよいのか。河合塾の近藤さんは、「受験直前に保護者はぶれるのがよくない」という。
今まで『自分で考えろ』といっていたくせに、直前になってあれこれ注文をつけたり、逆に口うるさくいろいろいっていたのに、直前になって急に『あとは自分の責任』と押し付けたりしても、あまり良い結果にならないという。近藤さんは「保護者も一貫性が大事」と話していた。