井崎脩五郎のおもしろ競馬学

開運の馬、ミラノの奇跡

ミラノ屋―。

町内にある、とても居酒屋とは思えない店名である。創業40年余り。

あるとき、どうしてこの店名にしたんですかと聞いたら、「競馬なんですよ」という。

聞けば、1979年3月3日のこと。何もかもうまくいかなくて、中山競馬場へ向かう途中で歩道橋の下の易者に占ってもらったら、「これから競馬場へ行くんでしょ(手に競馬新聞を持っていたので分かったらしい)。行ったらパドックで、あなたのことばかり何回も見る馬がいます。その馬から買いなさい。その馬こそ、開運の馬です」

競馬場に着いたら、第6レースの新馬戦に出る馬たちがパドックで周回を始めるところだった。

その中の1頭、1枠2番のミラノロードという馬が、目の前を通るたびにこちらを見る。必ず見る。この馬から買えということか。よし、人気馬がそろって入っている2枠へ、枠連①―②の1点勝負だ。有り金、全部!

そうしたら、ミラノロードは出遅れて後方のままだったが、同枠馬が2着に粘って、枠連①―②440円というのが当たってしまった。

「この日、そのあとはもう、信じられないくらい当たりまくって、とんでもない大金を手にしたんです。すべてはミラノロードを信じたおかげでした」

その大金を元にしてこの店を買い、感謝をこめて店名をミラノ屋にしたのだという。世の中には、こんなことがあるんだなあと、しみじみ思うしかなかった。

立川末広が、『ミラノの奇蹟』(ビットリオ・デ・シーカ監督)という映画のことを教えてくれた。第二次大戦の終戦直後、ミラノの広場の掘っ立て小屋で暮らす貧しい人々に、占い師の老婦人が、誰に対しても同じ答えをする。「今日はいい日になる」。その言葉を聞きたくて、なけなしのカネを持った人たちの行列ができる。これが毎日繰り返される。

しかし、百に一つの真実、なきにしもあらず。占いどおりになった、ミラノ屋の奇跡はそれを教えてくれるのである。(競馬コラムニスト)

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