小林繁伝

長嶋監督からの勲章 「コバには何も賞はないのか」 虎番疾風録其の四(140)

日本シリーズ第7戦の終了後、阪急の表彰式を見る巨人ナイン。悔しさをこらえる長嶋監督(右端)の険しい顔が印象的だった=昭和51年11月2日、後楽園球場
日本シリーズ第7戦の終了後、阪急の表彰式を見る巨人ナイン。悔しさをこらえる長嶋監督(右端)の険しい顔が印象的だった=昭和51年11月2日、後楽園球場

戦いは終わった。巨人の選手たちはベンチ前に整列して、歓喜の中で胴上げされる上田監督を見つめた。

第7戦、ネット裏では「もっと早くに小林を出していれば…」という声が多く聞かれた。2―1と巨人リードで迎えた七回、ライトは1死からウイリアムスに二塁内野安打され、二盗。そして森本に左翼へ逆転本塁打された。小林がマウンドに上がったのは、八回、ライトが福本にダメ押しのホームランを打たれたあと。遅過ぎる登板―だった。

実はこうなることを上田監督は予想していた。前夜、首脳陣だけのミーティングで彼らはこんな話をしていたという。

コーチ「ライト攻略はできます。カーブか直球かは投球フォームで分かっています」

上田監督「六、七回になって球威が落ちれば必ず打てるな。足立が踏ん張り、同点か僅差なら…」

コーチ「早めに小林が出てくるんやないですか」

上田監督「いいや、それはない。小林にはきょう5回も投げさせとるし、長嶋はライトを引っ込めにくいはずや。勝負は七回や」

まさに〝予想通り〟の展開になったのである。小林はコーチから「早い登板があるぞ」といわれ、ブルペンで用意していた。だが、なかなかベンチから電話がかかってこなかった。

長嶋監督は小林投入を躊躇(ちゅうちょ)した。7試合中6試合に登板。19回⅓を投げ2勝1敗1S、防御率2・84。コーチから「なぜ?」と尋ねられた長嶋監督は「コバには来年もある」と答えたという。

試合後、各賞が発表された。


【最優秀選手賞】福本豊

【打撃賞】福本豊、柴田勲

【敢闘賞】柴田勲

【最優秀投手賞】足立光宏

【技能賞】マルカーノ

【優秀選手賞】ウイリアムス

【勝利監督賞】上田利治


この発表に長嶋監督は思わず「おい、小林には何もないのか」と声を上げた。

「それを聞いたとき、ジーンと体がしびれた。監督の気持ちがうれしかった。ことし1年、死に物狂いでやってよかったと思った」。小林にとって、どんな賞よりも輝く〝勲章〟となった。(敬称略)

■小林繁伝141

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