リニア中央新幹線の開業見通しが立つことなく、道半ばでの交代となった。JR東海が11日に5年ぶりとなるトップ人事を発表。静岡県が県内工区の着工を認めず、暗礁に乗り上げているリニア問題のかじ取り役は、金子慎社長から後任の丹羽俊介副社長に託されるが、同県側との深い溝を埋めるのは容易ではない。
「大変心残り」。金子氏は11日の記者会見で、在任中にリニア静岡工区が着工に至る見込みにない心境を語った。静岡工区をめぐっては、環境への影響を懸念する同県の川勝平太知事の着工反対により、JR東海が目指す東京・品川-名古屋間の令和9年開業は事実上困難となっている。
リニア担当副社長だった金子氏の社長就任時は、既に川勝氏が工事への懸念を示していた上、同工事をめぐる談合事件の発覚後だった。トップの若返りで難局を打開したいとの狙いもあったとみられる。
金子氏は在任中に川勝氏に呼びかけて2回のトップ会談を実現。昨年11月には2人並んでリニアに試乗するなど関係構築に努めた。また、県側が工事による流量減少を懸念する大井川の流域自治体首長たちとも会談して理解を求めてきた。
ただ、川勝氏はリニア問題を争点化した3年の県知事選での圧勝などを背景に態度を硬化。公然とルート変更や工事中止を求めたほか、山梨―神奈川間の部分的な先行開業を提案し始めるなど、議論は平行線どころか混迷を深める一方だ。
それでも後任の丹羽氏が「社長が変わったからと進め方が急に変わるものではない」と説明するように、国土交通省幹部も「方針を変えずに粘り強く対応することが大切」と指摘。金子氏が代表権を持った会長に就任することを挙げ、「2頭体制でリニア問題に対処するのでは。長らくリニアに携わってきた金子氏の経験を今後も生かすということだろう」と語った。(福田涼太郎)