国家のガバメントAIが重要な社会インフラとなる

特集「THE WORLD IN 2023」

各国政府は行政や教育、医学分野などで人工知能を積極的に利用するようになり、デジタルインフラは道路や鉄道、水道と同じくらい重要視されるようになるだろう。

世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2023年の最重要パラダイムチェンジを網羅した恒例の総力特集「THE WORLD IN 2023」。トニー・ブレア研究所のベネディクト・マコン=クーニーは、先進的な国々がAIやメタバースを組み入れた全国規模のデジタルインフラの構築を加速させると見ている。

人工知能(AI)が急速に進化するなか、OpenAIの「DALL・E2」やグーグルの「Minerva」、DeepMindの「Gato」といったプロジェクトが、これまでの技術的限界をさらに押し拡げている。現在に至るまで、各国政府は最先端技術の採用には慎重だったと言っていい。しかし、2023年には、何らかの目的に特化した効果的かつ安価なサービスを国民に提供することを目的として、政府はついにAIを積極的に採用するようになり、その結果、政府はいまよりもっと透明性が高く、アクセスしやすく、実行力のある組織に生まれ変わるだろう。

すでにAIを使って国と国民のかかわり方を改善した国もある。例えばエストニア政府は22年、AIを活用した仮想アシスタント「Bürokratt」の運用を開始した。アマゾンの「Alexa」やアップルの「Siri」に着想を得て、パスポートの更新や給付金申請など主要な行政サービスを音声で利用できるようにしたのである。

フィンランドもこれと同様の行政サービス「AuroraAI」を18年から運用している。これは出産、結婚、高齢者ケアなど、「国民のさまざまなライフステージをサポートするパーソナライズされた自動サービスの提供」を実現するという、より大きな取り組みの一環だ。このプラットフォームは、行政の各部門と国民のやりとりをサポートするだけでなく、「処方箋を更新する」「新たな健康リスクについて注意喚起する」など、その人の将来を見越したコンシェルジュのような医療サービスも提供している。

教育分野や新薬の開発にも

23年には各国政府も重大な社会問題の解決に向けて、AIやビッグデータをようやく活用するようになるはずだ。例えば教育分野では、英国に拠点を置くCENTURYなどの企業が、政府による個人向けの「ラーニングパス」(学習サービス)の提供を支援している。このシステムは一人ひとりの生徒のニーズに対応する家庭教師のような役割を担い、学習の進捗をトラッキングし、改善すべき項目を分析することで、学校での勉強を補完する助けになる。

充分なプライバシー保護対策を組み込むなどしてこのようなプロジェクトを適切に進めることができれば、それ自体が競争力をもつデータ資産の宝庫となり、活用法いかんによっては研究やイノべーションの促進につながる。世界で最も重要な政府主導の生物学的研究プロジェクトのひとつである英国バイオバンクの例からも、これは明らかだろう。この取り組みのおかげで50万人以上の遺伝学的情報の公共データベースが誕生し、これまでに86カ国から30,000人近くもの研究者がこのデータベースにアクセスしたのに加え、AIやバイオテック系のスタートアップ企業が新薬や治療法の開発に役立てているのだ。

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