「シンザン」に先代がいたとは-。
われわれのよく知っているシンザンは、1961年生まれの鹿毛の牡馬。64年に皐月賞、日本ダービー、菊花賞の三冠レースをすべて勝って、戦後初の三冠馬になっている。その栄誉をたたえて、名前を冠した重賞シンザン記念が67年に創設され、8日にはその第57回が行われる。日本の競馬史に燦然(さんぜん)と輝く、まさに名馬中の名馬である。
さて、三冠馬シンザンの前にいた初代「シンザン」とは。以下の通り。
シンザン 1949年生まれ 栗毛 牝馬
父ニシヒカリ 母キザン
この馬の存在を教えてくれた長老記者によると、「たしか、レースには出ていないと思うぞ」
血統書『サラブレッド血統大系』(サラブレッド血統センター)にあたってみたところ、たしかに、未出走に終わった馬だった。
そもそも、父親のニシヒカリという名も聞いたことがない。調べたら、1勝馬だった。それでも種牡馬になれたのは、中山大障害を勝ったエイシャインの兄という血統のせいかもしれない。また、ニシヒカリは、皐月賞と日本ダービーを勝ったクモノハナ(三冠最後の菊花賞はわずか頭差の2着)の叔父でもあった。
おそらく、なにか1頭くらい、活躍馬を出してくれないかなあという淡い期待で種牡馬にしたのではないかと思う。
実は初代シンザンの場合、母親のキザンもエゾキザンの名で3勝を挙げているものの、重賞とは無縁。
つまり、初代シンザンは両親が地味な成績で、自身も競走成績なしという影薄い存在だったわけだが、ここから先が競馬の奥深いところ。
初代シンザンは繁殖入りして、なんと、重賞ウイナーを産んでみせたのである。59年の京都大障害(秋)を、8頭立ての5番人気で制したハルナサン。これが初代シンザンの子なのだ。やるもんだなあ。
障害のスーパースター、オジュウチョウサンが今年から種牡馬入りする。クラシックを勝つような大物が出たら面白いなあとあらためて思う。(競馬コラムニスト)