スポーツが未来を変える

日本サッカーの飛躍には何が必要なのか びわこ成蹊スポーツ大学 山本達三准教授

びわこ成蹊スポーツ大学の山本達三准教授(大学提供)
びわこ成蹊スポーツ大学の山本達三准教授(大学提供)

サッカーワールドカップ(W杯)カタール大会の日本はドイツとスペインを1次リーグで破り、決勝トーナメント1回戦ではクロアチアに善戦したものの、PK戦の末に惜敗した。しかし、大会順位は9位。目標としたベスト8に限りなく近いところまでたどりついたことが、国内外で評価されている。

W杯終戦後、メディアで日本代表の総括や選手の談話を目にする。印象に残っているのは、GK権田修一選手の「代表合宿からJリーグのチームに戻って練習すると、スローモーションに感じる。海外組の選手はパススピード、判断のスピードが全て速い。世界とJリーグのサッカーの格差は開く一方だ」という発言だ。

日本サッカーのレベルアップには、兎にも角にも「国内のJリーグのレベルをいかに飛躍的に高めるかが最重要ポイントになる」と考えていた私は、権田選手の発言を受け、Jリーグの改革が必要だろうと直感した。昨年の3月にもJリーグはJクラブの株式上場を解禁する改革を実行したが、さらに大胆な改革が必要なのだろう。スポーツビジネス専門家の観点から思いついたのが、北米プロリーグの哲学である「最高のレベルで、戦力の均衡したチームが繰り広げる競争状態の実現」をJリーグにも導入することである。

北米のプロリーグには、戦力を均衡にするさまざまなシステムが存在する。中でも、アメリカンフットボールのNFLやアイスホッケーのNHLが導入している完全ウエーバー制のドラフト制度を取り入れれば、前年度の最下位チームからドラフト指名権を得るので、戦力の均衡が進む(サッカーのMLSでも導入済み)。ドラフト以外にも、各チームの収益をリーグが管理して均等に分配する「レベニュー・シェアリング」や、所属選手の年俸総額に上限を設ける「サラリー・キャップ」などがある。こうしたシステムにより、潤沢なスポンサー料が期待できる特定のチームを中心に優勝が巡るのでなく、どのチームが優勝してもおかしくない状況が整う。

Jリーグの各チームの戦力が均衡化することで「勝敗の予測不可能な試合」が増えて「観戦者の観戦動機」が高まる。接戦の試合展開に、チームに対する「コミットメント・ロイヤルティー(忠誠心)」が高まり、スタジアムでの直接観戦の回数や、テレビ、ネット動画配信などを通じた間接観戦者数が増え、結果として「チーム収益」と「リーグ収益」の両方が高まることが期待できる。

Jリーグと各チームの収益が高まれば、優秀な選手の海外流出を防げるだけでなく、海外の代表クラスの選手を獲得することが可能となり、Jリーグの競技レベルを高めることにつながる。これらのシステムの導入が、日本サッカーのさらなる飛躍につながるのではないだろうか。

山本達三(やまもと・たつぞう)東京都出身。筑波大学大学院体育学研究科修了、中京大学博士課程満期退学、修士(体育学)。スポーツビジネス、スポーツマネジメント、スポーツマーケティングを専門とし、スポーツ観戦市場の推定・予測、スタジアム観戦者行動などについて研究。びわこ成蹊スポーツ大学スポーツビジネスコース准教授。

スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。

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