東京都練馬区の区立小学校で、児童による給食への異物混入や校内へのナイフ持ち込みといった問題行動が発生した後、心のケアなど児童への十分な対応を怠っていたことが23日、関係者への取材で分かった。一部の児童が「学校へ行くのが怖い」などと一時登校できなくなったが、スクールカウンセラーによる面談などを行っていなかった。区教育委員会も経緯を把握。こうしたケースに関し文部科学省は「当事者に限らず、周囲の児童の心のケアも行うべきだ」としており、学校側の対応に不備があった可能性がある。
問題行動は今年9月、明らかになった。5年生の一部の児童らが校内にマッチを持ち込み火を付けるのを、別の児童から知らされた教員が発見。児童らに対する聞き取りで、学級担任の給食への消毒液混入やナイフ持ち込み、1人1台配備されている学習用タブレット端末への不適切な書き込みなどが発覚した。
端末を通して担任への嫌がらせを示唆する書き込みが児童同士で共有されていたとの証言もあり、実行された可能性がある。児童に動揺が広がり、学校は同月末、臨時保護者会を開催。会合では、問題行動の報告のほか、関与した児童らへのカウンセリングの実施などが伝えられた。
問題行動を受け、一部の児童が精神的なストレスから一時登校できなくなり、保護者からカウンセリング実施の要望もあった。学校側は当初、異物混入などがあった学級の児童全員にカウンセリングを行う方針を示したが、実際には実施は関与した児童を中心に一部にとどまるという。
教員が生徒指導を行う際の手引書として文科省が定めた「生徒指導提要」には、問題行動を踏まえた対応の方向性が記されている。自殺者が出た場合には「周囲の人に及ぼす影響を可能な限り少なくするために適切な事後対応を行うことが求められる」と例示。文科省児童生徒課は「この考えは当然、いじめや暴力行為のケースにも準用される」と説明した。
関係者によると、この学校では、4年生でも階段からの突き落としや殴る蹴るといった児童同士の暴力行為が発生。授業中に校内の立ち歩きや「殺す」「死ね」などの暴言が常態化しているという。こうした学級崩壊が明らかになった場合、保護者の来校を求めるなど教員が家庭と連携して改善につなげるケースが多いが、この学校ではそうした対応もなされていない。
産経新聞の取材に対し、校長は「報道対応は区教委に任せる」と話した。区教委は問題行動を把握しているとした上で、「児童への指導や支援は継続している。問題が解決したとは考えていない」とした。
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保護者との連携は不可欠
東京都練馬区立小学校で発生した問題行動を巡る対応から浮かび上がるのは、学校現場の「閉鎖性」だ。保護者からは情報共有を求める声が出ているが、学校側は消極姿勢に終始している。暴力行為の低年齢化は全国的な問題で、専門家は学校と保護者の連携の必要性を訴えている。
「自分の子供が被害に遭うかもしれない。そんな場所に子供を送り出さざるを得ない状況が続いている。学校の中で何が起きているのか見えないのに、信頼のしようもない」。問題が発覚した小学校の保護者の一人は不信感をこう話す。
文部科学省の調査によると、令和3年度に小学校で発生した暴力行為は4万8138件。平成25年度の1万896件から4倍超に増えている。今年11月には、福岡県内の公立小で6年生の男児が糸切りばさみで同級生の女児に切り付け、けがをさせる事件が発生するなど、重大事案もある。
危険物の持ち込みを防ぐため手荷物検査などを求める声があるが、子供が受けるストレスやプライバシー保護などを踏まえれば、実施には限界がある。結局、効果的なのは、教室や家庭で子供の悩みや困りごとに寄り添って問題行動につながる予兆を見逃さないという日々の地道な積み重ねだ。心のケアをおざなりにすれば、二次被害を招きかねない。
学校マネジメントに詳しい教育研究家の妹尾昌俊さんは「問題行動への対処には、学校と保護者との連携が不可欠。学校は情報を抱え込むのではなく、家庭の協力を得てより良い環境づくりを目指してほしい。子供たちが安心して過ごせる安全な居場所にするということを第一に考えるべきだ」と指摘している。