【ワシントン=渡辺浩生】バイデン米大統領が、21日にワシントンを訪問するウクライナのゼレンスキー大統領に対し、地対空ミサイルシステム「パトリオット」の供与を表明する見通しとなった。ロシアによる民間インフラへの執拗(しつよう)な攻撃を受けるウクライナの防空能力を飛躍的に高める効果が期待される。バイデン氏としては、中間選挙の結果、支援拡大に消極的な声もある共和党が来年1月に下院多数派となる前に、ウクライナを支え抜くとの強いメッセージを内外に発する狙いもありそうだ。
米政権高官はパトリオットについて「インフラに対するロシアの野蛮な攻撃からウクライナの人々を守るために、極めて有用な兵器となる」と記者団に強調。ウクライナ軍が早期に実戦で使用できるようになるため、「第三国」で訓練支援を行うと述べた。CNNテレビによると、ドイツの米陸軍基地で訓練が行われる。
パトリオットは1991年の湾岸戦争でイスラエルに撃ち込まれたイラクのスカッドミサイルの迎撃に使われた。露軍の巡航ミサイルや航空機をインフラなどの目標から離れた距離で迎撃することが可能となる。
レーダーや発射機、電源など複数の装備に分かれ、運用には多数の要員、通常数カ月という訓練が必要。射程が長くロシア領内の軍事目標への攻撃に使用される可能性も排除できず、西側への報復を懸念する米政府は慎重に検討してきた。
しかし、ロシアはウクライナの変電施設や送電網の破壊行為を止めず、電力不足と寒さから市民生活を救うため、供与を急ぐべきだとの決断に至ったとみられる。侵略開始から約300日が経過し、ゼレンスキー氏としても国民の士気を維持するために必要な支援の獲得を迫られていた。
特に来年1月から米下院の多数派となる共和党には大規模支援の継続に消極的な空気がある。パトリオットの供与は、米国の超党派の支持をつなぎ止めたいゼレンスキー氏への強い援軍にもなりそうだ。